フィジカルとデジタルを融合した、
感性豊かなモビリティ体験

テクノロジーが飛躍的に進化する現代、自動車のコックピットは大型のディスプレイが主役となり、物理的なスイッチやボタンは姿を消しつつあります。そして音声による対話やタッチパネルでの直感的な操作など、デジタル技術の恩恵により、私たちとクルマとの関係性は大きく変わろうとしています。

しかし、日産総合研究所 横浜ラボの上田は、「スクリーン一択の世界は、人々が本当に求めているものだろうか」と疑問を投げかけます。デジタルは多くの情報を扱うことができ便利で多機能ですが、時として無機質に感じることがあります。それとは対照的に、実際に人が手で触れられるフィジカル(物理的)なものには、五感を刺激し、感情的な繋がりや温かさを育む力があり、ときに心を揺さぶり、使い続けることで思い入れや愛着を生み出します。

「デジタル化が進む現代だからこそ、人々が本能的に求めているものは、もっと温かみのある、触れることのできる実体験なのではないか」——この問いから生まれたのが、フィジカルとデジタルを融合させた新しいユーザーインターフェース「フィジタルUI」(PHYSIcal+digiTAL:物理的なものとデジタルを組み合わせた操作環境)です。

M3D部品構成イメージ

Phygital UI部品構成イメージ

デジタルの既成概念を覆す、新しい驚きと感動

フィジタルUIは、今までにない発想でフィジカルとデジタルの特長を巧みに組み合わせることで、従来の常識を覆す驚きと、新鮮で感動的な体験を提供します。

このUIの中核を成すのは、メーター内に設置された特殊なミニカーです。このミニカーは、実際のクルマの動きと連動して、ドアの開閉やランプの点灯を物理的に再現します。画面上の表示だけでは得られない、この小さな演出がもたらす驚きとワクワクは、乗る人の心を確実に掴んで離しません。

さらに革新的なのは、AI(人工知能)による周辺環境の認識とその表現方法です。メーターディスプレイには、広角カメラで捉えた周りの景色をリアルタイムでデジタル処理し、日本の漫画調や劇場風など、様々な世界観で描き出します。運転する人は気分や好みにあわせてスタイルを選ぶことで、自分らしい空間を創造することができるのです。ミニカーが個性豊かな世界観の中を、実際の走行に合わせて動きまわる様子は、思わず微笑みがこぼれる創造的な体験を提供します。

このユニークなUIは単なる遊び心だけではなく、走行安全性の向上にも貢献します。例えば、見通しの悪いT字路での右左折時には、AIがカーブミラーに映る景色を認識して状況を分析。その情報を、ミニカーを中心とした模型のような立体的な表示(ジオラマ)で直感的に示すことで、運転する人の瞬時な判断をサポートします。さらに複雑な道路標識もAIが解読し、わかりやすい形で伝えることで、安心でスムーズな運転をアシストします。

見通しの悪いT字路のカーブミラー

見通しの悪いT字路のカーブミラー

複雑な道路標識

複雑な道路標識

「現代のクルマには無数のセンサーとAIが搭載されていますが、重要なのはそれらの情報をいかに適切な形で運転する人に伝えるか」と上田は強調します。そして「既存の概念にとらわれることなく、仮想の世界(バーチャル)と現実世界をなめらかに融合させ、より直感的な操作や、一人ひとりの感性により響く体験を創造することが求められています」と語ります。

フィジタルUIは、最先端のテクノロジーを駆使しながらも、決して技術自体を目的とはしません。むしろ、人間の感性に深く寄り添い、新たな価値を生み出すことに焦点を当てています。人の感性に訴え、豊かなモビリティ体験を追求する横浜ラボの挑戦は、さらなる高みを目指して続いていきます。

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