第32回(2015年度)選評

あまん きみこ

童話作家

今回の最終候補は纏まってバランスのよい作品が多く全体横並びしていました。繰り返し読み、あれもよい、これもよい、しかしここは、これではと迷っていた時、この童話選考会に私が初めて参加した折、心・に・響・く・こ・と・が話題になった時間が蘇りました。藤田圭雄先生は独・創・性・という言葉をだされ、中川正文先生は独・自・性・を強調されました。そこで改めて並んだ作品をみると、どれにも深まる小宇宙は確かにあります。けれど「響く世界がどれだけ内在するか」と私自身厳しく問われていると感じました。

松岡 享子

(公財)東京子ども図書館 名誉理事長

年々選考がむつかしくなったと感じています。作品に甲乙をつける理由が見出しにくいからです。もちろん全体としてレベルが上がったともいえるのですが、一歩抜け出した魅力を見せてくれる作品がないともいえます。これまでの入賞作を範とするのでなく、もう少し視野を広げて東西の優れた作品に親しむ、あるいは子どもだったときのご自身の体験と感覚に入り込むなどして、ご自分の中の深い水脈を掘り当てて、そこから湧き上がってくるものを作品にしてほしいと願います。

三宅 興子

(一財)大阪国際児童文学振興財団 特別顧問

長年、子どもの本と取り組んでいて、「アリス」や「ピーターパン」、『たのしい川べ』や「クマのプーさん」などの古典的な作品が、特定の身近な子どもに語られたものであったことに注目してきました。

子どもを取り巻く世界の状況が激しく変化していくいま、「童話と絵本」はどうあるのでしょうか? 小さい世界でほっとするような作品が生み出されていく状況はよく理解できます。さらに、その上で、身近な子どもに、一番伝えたい世界観が問われているとも感じています。

杉田 豊

絵本作家

グランプリなどでは、偶々同系統の表現が揃うことがあります。今回の上席の作品を見ますと、その観でした。共通の表現は「リアリティ」の技を駆使した高度な技術です。その画面はそれぞれ独自な世界を抽出していたのです。

画面全体の情景画ではなく部分的に照射したアイテムの構成。手慣れたシンボル的描写。優れた洒脱な筆致。そして静止画のスーパーリアリズムの究極表現まで出現しました。これからが絵本構築の魅力を分析し、筋書きを含めたコンファレンスのスタートです。

篠崎 三朗

絵本画家

たくさんの作品に出合える期待感。選ばせていただく緊張感、そして入賞された皆さんおめでとうございます。私は選出の際、最初は絵本の文章は読まず、絵だけで、絵本の流れ展開を追っていきます。

それは単に説明的な絵だけではなく、絵本として、どれだけ説得力のある絵になっているかを感じとるためです。その中には、絵本のストーリー、ユニークさ、新鮮さ、面白さ、絵の魅力など多数の条件を加味しながら、読み手の心の中にどう響くかなどを想像しながらひとつの基準にしています。

志賀 俊之

日産自動車(株)副会長

今年も「日産 童話と絵本のグランプリ」の受賞作品が決定しました。情熱を注ぎ、思いを込めた作品をお寄せくださった応募者の皆さまに心より御礼を申し上げますとともに、本グランプリを支えてくださる多くの方々のご尽力に感謝いたします。子どもたちが複雑で予測の難しい未来に立ち向かっていくとき、「想像力」は勇気と力を与えてくれる武器となるでしょう。このグランプリから生まれた本との出会いが、子どもたちのしなやかで多様な価値観を育んでくれることを願ってやみません。