自動車業界では、近年「CASE(ケース)」という言葉がよく使われます。「CASE」とは「Connected(=つながるクルマ)」「Autonomous(=自動運転)」「Shared(=シェアサービス)」「Electric(=電気自動車)」の4領域の頭文字をつなげたもので、自動車会社がこの先生き残るための基盤となるキーワードといわれています。日産でも「ニッサン インテリジェント モビリティ」という取り組みのもと、電動化や知能化といった先進技術の開発を進めており、現在のラインナップにも採用を進めています。
技術開発に求められる領域は日々変化しています。新技術の開発には、より高度で複雑な開発ノウハウを持つ体制が必要不可欠となります。変革期にある自動車業界をリードしていく人財を育成すべく、日産は2017年11月に日産ソフトウェアトレーニングセンター(STC)を設立。この度初めて報道関係者に公開されました。
志願したエンジニアは、若手ベテラン問わず、3.5カ月の間本業の職場を離れて集中的にプログラムに参加し、ソフトウェア開発における基礎から、設計、実装、評価までを一貫して学ぶことができます。現在受講中の生徒で5期生になり、7月末には開所から累計で147名が修了する見込みです。卒業生は皆、自部署に戻ってSTCで得た知識と経験を商品の開発に活かしています。
プログラムについて、受講生に話を聞いてみました。
電子アーキテクチャ開発部からこのプログラムに参加している5期生の土岡智旭は、「ソフトウェア開発において、ノウハウを0から100まで一貫して学べることが魅力です。自分は普段、電子信頼性評価の仕事をしていますが、講義ではソフトウェア開発におけるプロセスの全体像を把握することができるので、自分の仕事の役割を再認識することができました」と話します。
また同じく5期生の中川裕衣は「自動運転に関わる部品の評価を行う担当をしていますが、自分が評価を行う工程の前に、どこでどのようなプロセスが踏まれて部品が作られているのかを正しく理解できます。また、今後は自分の行いたい評価を仕様から読み取って評価ができるようになることも楽しみです」と語りました。
業界でもあまり前例のないプログラム。どのような苦労があるのでしょうか? プログラムの事務局を務める、ソフトウェア開発部の長谷川美和子はこう振り返ります。
「現在、開所から5期目を迎えていますが、テキストなどコンテンツをアップデートしていくだけでなく、オペレーション面でも様々な工夫を行っています。STCに受講にくる人は様々な背景や経験を持っているため、ソフトウェア開発の知識レベルも幅が広くある程度の知識や経験を元々持っている人から、ほとんど初めて学ぶような人もいます。講義後には小テストを行い、必要な人にはフォローアップするなど、細やかな対応を心がけています。また講義中は受講生が先生の話を聞いているだけにならないよう、生徒への問いかけやディスカッションを頻繁に設けるなど、インタラクティブになるようにしています。インド出身の講師によると、インドの学校では講義中に質問や意見を言うことに対して積極的な生徒が多く、講義が活発だそうです。開所当初は『日本のクラスはなんて静かなんだ!』と驚かれましたね」
また、日産で電子・メカトロニクス車両開発を担当するフェローの豊増俊一は、プログラムについてこう語ります。
「電気自動車や自動運転技術などは、機械と電子が協調した『メカトロニクス』技術のソリューションでお客さまに価値を提供しています。そうした意味でクルマを開発するエンジニアが、ソフトウェアのスキルをしっかり身につけて、自分たちのプロジェクトで遺憾なく発揮することが重要です。ですから敢えて自動車メーカーとしてSTCを設けて教育を進めています。
これまで毎年90~100名のSTC卒業生を輩出していますが、2022年度末には合計で500名がSTCを卒業する予定です。優秀なソフトウェアの技能を持ったエンジニアを育成することによって、先進技術を搭載した商品群の価値に厚みをつけ、世界中の市場にいち早く展開していけると期待しています。
また、エンジニアがソフトウェア開発のスキルを身につけることによって、自分の仕事に対して誇りを持つことにもつながり、それが情熱を生むと思っています。STCのプログラムを通してソフトウェアのコンピテンシー育成とエンジニアの情熱を育むことで、『ニッサン インテリジェント モビリティ』を推進していきたいと考えています」
STCを卒業したエンジニアの卵たちは、将来どのようなクルマを生み出すのでしょうか?
ぜひご期待ください。