木村 康

取締役会の建設的な議論でステークホルダーの期待に応える 木村 康 独立社外取締役 取締役会議長

今年の3月7日に当社は公正取引委員会より下請法の抵触に関する勧告を受けました。

取締役会としても重く受け止めており、経営トップが率先して問題解決、原因究明、再発防止に努めること、さらには透明性をもって説明責任を果たすことを確認し、本勧告を受けた下請事業者への返金および、割戻金の運用の廃止を速やかに実施しました。

さらには、より積極的にお取引先のお困りごとやご要望を求めるために、お取引先専用ホットライン開設および新設の部署の設置等を実施しており、取締役会としてもこうした政策がしっかりと運営されているかを監督して参ります。

当社がイノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な成長と社会的課題の解決を図っていくためには、お取引先との適正な取引、責任ある調達によるサプライチェーン全体の共存共栄が欠かせません。

取締役会としましても高い倫理観を持って、実効性あるガバナンスの構築のみならず、順法精神を始めとする企業文化改革、再発防止策の確実な実行と風化させない取り組みについて、重点的に確認していくことで取締役会としての責任を果たすことをお約束します。

「Nissan NEXT」から「The Arc」、さらにその先を見据えて

日産では、2020年度からスタートした事業構造改革「Nissan NEXT」のもと、コーポレートガバナンスの強化を経営に関する最重要課題の一つとして取り組んできました。2023年度は、2020年度から4年かけて実行してきたこの「Nissan NEXT」の集大成の年であったのと同時に、続く新中期経営計画の策定に向けた重要な年であり、取締役会でも活発な議論を進めてきました。

新中期経営計画の策定にあたり、経営陣には大きく3つのことをお願いしました。まず、ここまでやってきた「Nissan NEXT」を土台として、当社のどんな価値を提供していくかを選択と集中の観点で、中長期的な時間軸の中でこの新中期経営計画をどんな位置づけにするかを具体的かつ明確にすること。次に、その先の成長を見据えた種まきとして何に取り組むべきかを考えてほしいということ。そして、ルノーと対等な資本関係になったことを踏まえ、新生Nissanとしてどのようにアライアンスを活用していくかを示してほしいということです。

このたび発表された経営計画「The Arc」は、まさに、「Nissan NEXT」と長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の架け橋となるものです。グローバルプレイヤーであり続けたいという強い覚悟のもと、2024年度から2026年度までの販売台数増を支える商品ポートフォリオと財務規律を軸とした取り組みと、「その先」、EV移行に向けた幅広い取り組み、パートナー戦略や新規事業を軸とした取り組みから構成されています。日産がこれまでに続けてきた電動化へのたゆまぬ努力を土台にした、野心的でありながら十分に実現可能な経営計画となりました。取締役会では「The Arc」の達成を目指し、引き続きさまざまな角度から執行側の取り組みを監督しながら、この新中期経営計画の実行を後押ししてまいります。

先進的なガバナンス体制のもと、独立社外取締役が牽引する取締役会

日産の取締役会は、さまざまな専門性、ジェンダー、国籍を有しており、構成員12名のうち8名が独立性を有する社外取締役、私自身も独立社外取締役の立場で議長を務めるなど、監督機能の透明化をはかっています。また、経営の意思決定を迅速かつ機動的に行うために執行側への大幅な権限委譲を行っており、日本の中でも先進的なガバナンス体制となっています。

監督機能としての取締役会に求められるのは、日々の業務執行状況のモニタリングのみならず、本質的な問題点を踏まえた当社の方向性に関する議論と、議論を行ううえでの透明性と公平性の確保です。私は議長として、取締役会における審議を活性化させ、生産性の高い建設的な議論に導くために、経営陣に対しては、簡潔かつ要点を押さえた説明と迅速な情報提供、とくに悪い情報ほど速やかに報告することを求めており、独立社外取締役に対しては、全株主の利益代表の目線から、日産の企業価値向上という目的のために、経営陣に対してそれぞれの知見を踏まえて積極的に助言や意見をするように働きかけています。

これにより、経営陣と取締役会が互いを尊重しながら、会社の持続的な成長に向けた議論を継続し、すべてのステークホルダーの皆さまに対してその責任を果たしていきたいと考えています。

社会とステークホルダーの皆さまとともにサステナブルな成長を目指して

日産は、サステナビリティを企業の基盤や文化の中核に位置付けており、よりクリーンで、安全で、インクルーシブな、誰もが共生できる世界の実現を目指しています。中長期的な企業価値向上の観点から、環境、社会、お客さまからのニーズに応えるために、サステナビリティを軸とする経営方針の策定、そして優先的に取り組んでいくべき重要課題の特定に監督の立場で関与しながら、取締役会においては日産が真にサステナブルな企業に成長できるかという問いかけを執行側に行って参りました。

2023年度は、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」で掲げた、2050年までにカーボンニュートラルを実現するミッション達成のために、経営計画「The Arc」を発表しました。その土台として、環境・社会的課題を解決するための両輪である「ニッサン・グリーンプログラム2030(NGP2030)」、「ニッサン・ソーシャルプログラム2030(NSP2030)」を開示し、商品や技術、サービスの提供のみならず、包括的なライフサイクル全体といったあらゆるビジネスの側面で、サステナビリティを優先した取り組みを加速する準備ができたと考えております。

社会とステークホルダーの皆さまにも、当社の取り組みを知っていただき、ご理解いただくために、これからも積極的な情報発信を経営陣にお願いする一方で、掲げた目標の達成状況をしっかりと確認し、より持続可能な未来の実現に向けて貢献していく所存です。

木村 康

2024年9月掲載(統合報告書2024より抜粋)