Punkが導くイノベーションの未来

日産総合研究所 横浜ラボの上田 哲郎は、イノベーションが生む「感動」を大切にしています。そして、その感動は「シンプルな技術」によって最大化されると信じています。上田がこれまで感動させられてきたイノベーションを振り返ると、多くが先進技術の中にアナログやローテクなどのシンプルな技術の新しい使い方を組み込んでいるのだと彼は語ります。

しかし、世界中のテックカンパニーがハイテクで先端的な技術革新を追い求める中で、シンプルな技術を追い求めることは技術開発の常識に逆らう勇気を要します。そんな上田の背中を押すのは「Punk(パンク)」の精神性です。流行から逸脱し反逆的なメッセージを掲げるパンク・カルチャーのように、イノベーションも時にテクノロジーのメイン・カルチャーを疑い、打開する必要があるのです。

横浜ラボは今、日々技術開発のスピードが加速するAI研究領域をリードするべく、シンプルな技術をもって競争からはみ出そうと企んでいます。最新のAI技術とローテク技術を組み合わせることで、いまや日産を含む誰もが追い求めているAIによる効率化や安全性の確保だけでなく、AI活用に遊び心や楽しさという感動を生み出します。横浜ラボが開発する「AutoDJ」は、Punkらしい逸脱の発想から、ワクワクするドライブ体験を提案します。

AutoDJの身体と心として機能する「エポロ」

AutoDJとは、生成AIを活用した車載エージェントシステム。ドライバーとの会話に基づいて目的地を検討し、ナビを設定したり、リアルタイムで生成されるラジオをかけたりすることができます。システムのひとつの象徴的存在となっているのは、日産のマスコット的存在である「エポロ」です。AutoDJのユニークさは、その「身体性」へのこだわりにあります。

AutoDJは、スマホとエポロのフィギュアをクルマの運転席にセットすることで簡単に使用できます。スマホ画面に現れるのはチャット形式の会話ログと、エポロの3Dモデル。フィギュアはわざとこちらに背を向けるような形で置かれることで、画面に映るエポロの表情の動きがまるで鏡越しにフィギュアを見ているような錯覚を生みます。この仕掛けもシンプルな技術の活用例で、実際にエポロが「そこにいる」ように感じられるこだわりは、横浜ラボが追求する遊び心と感動を体現しています。

また、「サムライエポロ」や「おじさんエポロ」など、エポロにはさまざまな姿が用意されており、それぞれ違う性格や口調のセリフが生成されます。他にも専用アプリを使って写真から自動で生成されたキャラクターをエージェントに設定したり、カプセルトイのフィギュアを元に、エージェントを設定するなど、これまでにないパーソナライズの形が模索されています。

車載エージェントシステム「AutoDJ」
さまざまなキャラクターのエポロ

さまざまなキャラクターのエポロ

クルマの位置情報を身体化する「ジオラマナビ」

AutoDJは横浜市みなとみらい地区での自動運転モビリティサービスの実証実験に向けて、また新たなシンプルな技術を取り入れています。AutoDJ搭載の車内には、なんと手で触れる立体的なジオラマの姿をしたナビが設置されるのです。通称「ジオラマナビ」のミニチュアのみなとみらいの街の中では、豆粒大のクルマの模型が磁力で操作されて動き回り、実際に搭載しているクルマの「Analog Twin(アナログ・ツイン)」として現在地をリアルタイムに示します。液晶画面のナビがある時代に逆うようなジオラマの存在感は、ユーザーの遊び心を刺激します。

ジオラマナビの下部、AutoDJの操作部にはレトロな見た目のラジオが設置されています。このラジオももちろん、シンプルな技術の活用例です。デザインにはあえてつまみやプッシュ式のボタン、さらにはトランシーバーのように持ち上げてエポロと話せる受話器が取り入れられていて、タッチパネルやスクリーンが普及する現代に失われつつある「操作する楽しさ」をつくりあげています。実際にAIパーソナリティの「ミナ」と「ミライ」がのんびり喋るFM風ラジオや、設定された目的地やナビ情報に対応して生成される観光案内など、パーソナライズされたコンテンツが再生できます。これらのコンテンツはAIで生成されるため、毎回異なるシナリオが流れ、ユーザーは乗車する度に新たな発見に出会い、何度でも街を訪れたくなるユニークな体験を楽しめます。

また、ジオラマナビをベースにした、自動運転車の管制システムをイメージしたプロトタイプである「管制ジオラマテーブル」も制作されています。ジオラマナビよりスケールアップした管制ジオラマテーブル上には複数のミニカーが走り、現在AR / VR技術と掛け合わせる取り組みも進行しています。

AutoDJジオラマナビ
管制ジオラマテーブル

上田は、フィギュアを用いたAIエージェントやジオラマナビなど、デジタルの時代では一見非効率なインターフェースも発展させ続けることが重要だと話します。なぜなら、技術の進歩とは一直線に進まないものだから。未来に行き着くには、現在の常識や想定の外に出なければなりません。だからこそ、今の技術では再現しきれないと思われる突飛な構想も、いつかは達成できると信じて辛抱強く取り組みます。上田率いる横浜ラボは、今回発表されるAutoDJを含むシンプルな技術を活用した「Punk Innovation」で、日産のDNA「他のやらぬことを、やる」を体現し、実現していくことを情熱をもって目指します。

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