共創のイノベーション:Ao-Solar Extender
EVユーザーやモノづくりの仲間たち。日産自動車の井上 潤一は、彼らとの「共創」を軸に技術開発を進めています。井上率いるチームが開発する「Ao-Solar Extender (あおぞらエクステンダー)」は、井上自身のEV開発の経験とチームの知見をかけあわせてユーザー想いなEVの未来をつくる、共創のイノベーションです。
Ao-Solar Extender開発メンバー
井上 潤一
青山 一樹
山田 嘉穂
阿部 圭太
ソーラーパネルの拡張で、充電フリーEV実現へ
Ao-Solar Extenderとは、日産サクラの天井部分に取り付けられるソーラーシステムのコンセプトモデルです。電動スライド式で伸縮し、駐車時には自動で展開し、走行時は格納されます。これまでの自動車用のソーラーパネルは、クルマの屋根面積の制約から、発電量が少ないという弱点がありました。Ao-Solar Extenderは同じ性能のソーラーパネルを使いながら、「面積を2倍にする」というアイデアでその弱点を克服します。その画期性が評価され、Ao-Solar Extender は21年度の日産社内コンペティション「New Value Co-Creation」で最優秀賞を受賞しました。
Ao-Solar Extenderは年間3,000km走行分の発電を目指します。サクラの市場の走行データを分析した結果、日常的な買い物や送迎などの短距離ドライバーが多く、1年間の走行距離はリーフやアリアより少ない傾向がありました。年間3,000km分 の発電量があれば、EVの充電がほぼ不要となる「充電フリー」が多くのユーザーで実現できる見込みです。
「スライド式」は、チームの知見とプロトタイピングから実現した
「スライド式」のアイデアは、井上がネットで見かけた「カーアンブレラ」から着想を得ています。飛来物や日光からクルマのボディを守る、車体の屋根に取り付ける傘のような製品です。カーアンブレラのように大きく開き、格納もできるソーラーパネルに可能性を感じる一方で、チームのエンジニアの阿部 圭太はその機構の複雑性による実現の難しさを指摘していました。そして、アイデアのブラッシュアップのためにメンバーとアイデアワークショップを実施し、スライド式が発案されました。ワークショップでは他にも、ユーザーの手間を無くすため電動スライド機構とすること、強風時は自動で格納すること、既存の車体に後付けできること、アプリで発電量をチェックできること、目的はユーザーのEV充電の手間を無くすこと、などのAo-Solar Extenderの基本構想が固まりました。
さらに、開発メンバーはモックアップを試作し、スライド式の実現性を検証しました。デザイナーの青山 一樹によって走行時の風によく馴染む流線形が提案され、Ao-Solar Extenderは現在の姿に辿り着きます。その初期プロトタイプの発電実験を進める中で、自身もEVオーナーであるエンジニアの山田 嘉穂はこのソーラーパネルをより多くの人々の「生活」を助けるものにしたいと考えました。日々忙しく過ごすお客さまが、EVの充電から自由になれば、時間にゆとりができ、より豊かな生活につながります。だからこそ、Ao-Solar Extenderはユーザーの通勤や買い物を支える、軽自動車の日産サクラへの搭載にむけて開発が進められたのです。
アプリで毎日の発電をゲームに
Ao-Solar Extenderの発電状況をチェックしたり、他のユーザーと交流できるアプリの開発も進められています。リアルタイムに更新される情報がいつも手元にあることで、ソーラーパネルの発電状況の納得感が増します。例えば、比較的晴れているにもかかわらず発電量が少なかった日に、Ao-Solar Extenderが強風のため自動で格納していたことを知ることができれば、ユーザーは製品への不信感を抱かずに使用を続けられます。
また、アプリを通じてAo-Solar Extenderの発電状況をシェアしたり、発電量を競うこともできます。開発の背景には、実際に住宅用ソーラーパネルを利用し、発電状況を確認できるアプリを日々見て楽しんでいる井上自身の体験があります。天気や日射量以外にも、ソーラーパネルの角度や表面の汚れ具合などの要因で発電量は大きく変動します。Ao-Solar Extenderの発電量競争には意外にもゲーム性があるのです。
給油からも充電からも解放された、究極のクルマのある生活に
井上は、Ao-Solar Extender実装の先に、EVのソーラー発電が普及して当たり前になった世界を描いています。ソーラーパネルの発電性能がさらに向上すれば、完全に「充電フリー」なEVも現実的になります。給油からも充電からも解放された、究極のクルマ。その頃には、ソーラーパネルはクルマの一部として馴染み、後付け型のAo-Solar Extenderの構造とは全く違う姿になっているかもしれません。
また、Ao-Solar Extenderを搭載したEVは、その発電性能を応用して災害時の蓄電池として活躍することも期待されます。EVのソーラー発電の普及には、日常だけでなく、非常時の生活をも変容させるポテンシャルがあります。
地域によって異なる日射量や強風、降雪や火山灰など、さまざまな課題を検証する上で、井上はなるべく実際のサクラユーザーやEVユーザーと積極的にコミュニケーションを取り、綿密なヒアリングを行うことで、共創の範囲を広げた「Open Innovation(ひらかれたイノベーション)」のかたちを取りたいと話します。
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