第35回(2018年度)選評

富安 陽子

童話作家

東京生まれ。日本の神話や伝承をいかしたファンタジー読物や絵本を数多く発表。『クヌギ林のザワザワ荘』で日本児童文学者協会新人賞他、『小さなスズナ姫』シリーズで新美南吉児童文学賞、『盆まねき』で野間児童文芸賞等を多数受賞している。他の作品に『菜の子先生』シリーズ、絵本『まゆとおに』など

いつも応募作品の世界を楽しませて頂いています。こんなに面白いお話の種をどこで見つけたんだろう? と感心することも数々しばしば。残念なのは、そのせっかくの種が活かされず、開花していない作品が余りにも多いことです。お話づくりには根気がいります。妥協せず、投げ出さず、物語がきちんとあるべき形におさまるまで、書き手としてどうぞしっかりお話を育てきってください。もっと面白く、もっと自由に、と念じながら私も日々お話づくりに取り組んでいます。

吉橋 通夫

童話作家

岡山市生まれ。現在は長野県大町市に在住。『季節風』同人。『たんばたろう』で毎日童話新人賞、『京のかざぐるま』で日本児童文学者協会賞、『なまくら』で野間児童文芸賞を受賞。主な作品に『風の海峡』上下巻、『すし食いねえ』『はっけよい!雷電』『小説鶴彬』『風雪のペン』などがある。

おもしろい作品を選ぶとき、ぽくは次のような基準で考えます。

①発想がユニークか ②素材やテーマに共感できるか ③ストーリー展開に意外性があるか ④キャラクターは鮮やかに描けているか ⑤文章はリズム感があり読みやすいか。

このうち、―つだけいいのがある作品には、「ううむ」と腕を組みます。二つあれば、「惜しい」と悔しがります。三つ以上あれば、合格! 自分では出来もしないのですが、自戒と、皆さんへの希望と期待を込めて。

宮川 健郎

(一財)大阪国際児童文学振興財団 理事長

日本児童文学の研究者。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。宮城教育大学助教授等をへて、現在、武蔵野大学文学部教授。日本児童文学学会理事、宮沢賢治学会イーハトーブセンター理事も務める。『現代児童文学の語るもの」(NHKブックス)、『物語もっと深読み教室』(岩波ジュニア新書)など著書・編集多数。

文学作品のなかで起こるのは、日常を新しく見直すことです。童話の部大賞の「くじらすくい」の小さな魚がクジラに見えたかと思うと、青黒い水がゆれて、それが、きたない金魚に見える瞬間……日常のゆらぎを描いて見事です。日常に風穴をあける、優秀賞の「イカのくせにな」「いつか、新幹線に乗って」には友だち関係のとらえ直しがあり、「あ、忘れてた。」ということばは新しい場面を開きます。どの物語も、子どもたちに、時には息苦しいこともある毎日を見直すヒントを与えてくれます。

黒井 健

絵本画家

新潟県生まれ。色鉛筆を使った細やかであたたかい画風の絵を数多く発表。主な絵本作品に、『ごんぎつね』『手ぶくろを買いに』『猫の事務所』(偕成社)、『おかあさんの目』(あかね書房)、『ころわんシリーズ』(ひさかたチャイルド)、画集に『雲の信号』(偕成社)などがある。

今回の上位賞は、大賞、優秀賞とも昨年も上位に入賞していた作者の作品が選出されました。これは素晴らしいことで、それぞれ昨年よりもよりパワーアップした作品になっていたということです。

・大賞「こがらしの日は」ソフトな色彩と大胆な構図は魅力的で、おはなしには思いがけない展開があり、ページを送る楽しみがありました。
・優秀賞「ナメクジふどうさん」たいへんおもしろいアイデアでした。
・優秀賞「空の落としもの」細密な絵に不可思議な魅力がありました。
・優秀賞「みて、みて、できたよ。」文字のない絵本として納得の構成でした。

篠崎 三朗

絵本画家

桑沢デザイン研究所専攻科卒業。現代童画会ニコン賞、高橋五山絵画賞、ミュンヘン国際児童図書館にて絵本『おかあさん ぼくできたよ』が国際的に価値のある絵本として収録される。教科書のアートディレクションを数多く手懸ける。絵本、児童書の挿絵など多数出版。日本児童出版美術家連盟理事。

今回も応募された、たくさんの作品の絵本を選考するにあたって、初めに、選考の基準を決めず、頭の中を「無」にして作品と向き合うように心がけています。

それは、自分のもつ絵本観を超越する作品に出会う事の出来ることを願ってのこと、次に絵本としての必須条件を満たしているかを検討します。ストーリー、絵の独自性、構成力、展開、絵本の中の文字の位置、ページのめくりと絵本の流れ、絵本としての説得力、扉まで細部にわたって検討させていただきます。これらの条件をクリアして、入賞された皆様お喜び申し上げます。

西川 廣人

日産自動車(株)社長兼最高経営責任者

日産自動車株式会社 社長兼最高経営責任者。

同社は、「環境」「安全」「ダイバーシティ」を中期重点分野と定め、社会貢献活動に取り組む。次代を担う子どもたちへの支援は、同社が社会貢献活動を通じて一貫して取り組んでいるテーマであリ、1984年のグランプリ創設以来、協賛を続けている。

本グランプリは今回で35回目を迎えます。長きに亘りこの活動が継続できたのは、たくさんの素晴らしい作品を応募いただいた皆様はじめ、審査員の皆様、大阪国際児童文学振興財団および運営関係者の皆様のおかげです。

35年前の創設当時と今を比べると、世の中は想像を絶するほど大きく様変わりしていますが、良い本との出会いは、今も変わらず子どもたちにとってかけがえのないものです。私たちの社会の宝である子どもたちが愛情に包まれ、豊かな想像力、そして異なる価値観を認め合える力を育みながら成長していくことを願い、少しでもお役に立てるよう、日産自動車はこれからも、皆さまのご協力を賜りながら、このグランプリを大切に育てて参ります。