第34回(2017年度)選評

あまん きみこ

童話作家

旧満州生まれ。与田凖一の勧めで「びわの実学校」に「くましんし」を投稿し評価を得て、作家デビュー。第1回日本児童文学者協会新人賞 野間児童文芸推奨作品賞など、多数受賞。また、小学校の教科書へ多数の作品が掲載されている。代表作は、『車のいろは空のいろ』、『ちいちゃんのかげおくり』、『きつねのかみさま』他多数。

今回の候補作は全体にのびやかで多方面に拡がっていました。十枚から中身内容が溢れ零れんばかりの作品もありました。十枚に収める為に文章の枝葉を切り取って初めて立ち上がる世界もある筈です。作者は自分の内的宇宙を信じるだけではなく、複眼になって読む側、聞く側の目、耳で推敲してほしいものです。入賞入選しなかった作品を、どうぞ捨てないでください。勿体ない作品が沢山ありました。読みなおし書きなおし、作品を育ててほしい。作品は生きもののような気がしてなりませんので。

富安 陽子

童話作家

東京生まれ。日本の神話や伝承をいかしたファンタジー読物や絵本を数多く発表。『クヌギ林のザワザワ荘』で日本児童文学者協会新人賞他、「小さなスズナ姫」シリーズで新美南吉児童文学賞、『盆まねき』で野間児童文芸賞等を多数受賞している。他の作品に「菜の子先生」シリーズ、絵本『まゆとおに』など。

今年もまた個性豊かな作品が集まりました。応募して下さった皆さんはきっと短いお話を書く難しさをしみじみ実感なさったことと思います。限られた文字数で物語を立ち上げ、一つの世界を完成させるのは本当に困難な営みです。文脈に無駄がないか。文章はイメージをかきたてる力を持っているか。言葉は的確にしてリズミカルか。そしてそれは子どもたちの心に届く言葉か――。いつも自分にそう問いかけます。皆さんもどうぞ問い続け、書き続け、さらに面白い物語を作り続けてください。

宮川 健郎

(一財)大阪国際児童文学振興財団 理事長

日本児童文学の研究者。立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。宮城教育大学助教授等をへて、現在、武蔵野大学文学部教授。日本児童文学学会理事、宮沢賢治学会イーハトーブセンター理事も務める。『現代児童文学の語るもの』(NHKブックス)、『物語もっと深読み教室』(岩波ジュニア新書)など著書・編著多数。

童話の部大賞の「ぶぅぶぅママ」の変身したママ、優秀賞の「竹太郎」の竹のなかにいたコオロギ、ゆうくんのところに突然やってきた「くらやみさん」これらの登場によって、作中の子どもたちの日常が、ちがう顔を見せはじめます。「サウダちゃん」では、外国からの転校生が主人公の暮らしを見直すきっかけを与えてくれます。

子どもたちの生活のなかから引き出された愉快な物語、あたたかな物語を楽しく読ませていただきました。受賞者のみなさん、おめでとうございます。

篠崎 三朗

絵本画家

桑沢デザイン研究所専攻科卒業。現代童画会ニコン賞、高橋五山絵画賞、ミュンヘン国際児童図書館にて絵本『おかあさん ぼくできたよ』が国際的に価値のある絵本として収録される。教科書のアートディレクションを数多く手懸ける。絵本、児童書の挿絵など多数出版。日本児童出版美術家連盟理事。

応募された、たくさんの絵本に接する期待と選考をする緊張感をもって審査を致しました。常々、絵本の絵は上手・下手ではなく、いい絵であってほしいと願っています。絵を描く高度な技術をもっていても、絵本につながらないこともあります。幼稚園の園児が描いたような無邪気な絵でも、絵本になる可能性もあります。絵本の絵は、見る人の心にどう共鳴できるのかだと思います。

このようなことを、頭の隅に少しだけ入れていただいて、絵本創りを楽しんでいただけたらと思います。

黒井 健

絵本画家

新潟県生まれ。色鉛筆を使った細やかであたたかい画風の絵を数多く発表。主な絵本作品に、『ごんぎつね』『手ぶくろを買いに』『猫の事務所』( 偕成社 )、『おかあさんの目』( あかね書房 )、「ころわんシリーズ」(ひさかたチャイルド)、画集に『雲の信号』( 偕成社 ) などがある。

このコンクールにおいては、書店での絵本出版を目指すものですから、まず作画の完成度が求められます。完成度とは卓越した表現力であったり、驚くほど隅々まで描かれた作品や、シンプルでも個性的な魅力を放っている作品です。

そうした作品の中でストーリーのおもしろさと、絵との調和が審査されます。

絵が素晴らしくとも文が必要以上に長くて解りにくかったり、着想に新鮮さが欠ける作品は審査の過程の中で印象に残らなくなります。

入賞作品はおおむねこの両者が備わった作品になりました。

西川 廣人

日産自動車(株)社長兼最高経営責任者

日産自動車株式会社 社長兼最高経営責任者。同社は、「環境」「安全」「ダイバーシティ」を中期重点分野と定め、社会貢献活動に取り組む。次代を担う子どもたちへの支援は、同社が社会貢献活動を通じて一貫して取り組んでいるテーマであり、 1984 年のグランプリ創設以来、協賛を続けている。

34回目となる「日産童話と絵本のグランプリ」、おかげ様で、今年も素晴らしい作品に恵まれました。

童話、絵本の作家を目指して応募頂いた皆様のチャレンジ、情熱と愛情、そして審査員の皆様、募集運営に携わる方々のご協力、熱意の賜物です。

次世代を担う子供たちは、いつの時代でも、また世界のどこであっても、社会の宝です。

愛情に包まれ、想像力をはぐくみながら成長していくことに少しでもお役にたつことを願い、日産自動車は、これからもこのグランプリを大切に育てて参ります。