第31回(2014年度)選評
あまん きみこ
童話作家
今回の候補作は、全体にととのった世界が多かったように思いました。ととのうということは、時に類型からぬけにくく、作品の奥行きが薄くなります。その為か、選考会では、受賞候補が数点に絞り込まれながらも、なかなか決定されず長い話合いになってしまいました。
作品を書きあげた時の充実感、その喜び。でも、そんな時でも、少しの時間をおいてから、他者の目になって読み直してみてください。「惜しい作品」に出会った時ほど、そう思われてならないのです…。
松岡 享子
(公財)東京子ども図書館 理事長
毎年、寄せられたみなさまの作品を拝見して思うことですが、そこに注ぎこまれたお気持ちと時間を考えると、選考の結果がどうであれ、創作の営みそれ自体が尊いと思わずにはいられません。
一方、子どものために本を選ぶ立場にある図書館員の目から見ると、このままで読者に受け入れられるだろうかと疑問に思うことが多いのです。作家や画家が、自分の内にあるものを表現することと、それが不特定の読者に受け入れられることとの間にある隔たりを思います。
三宅 興子
(一財)大阪国際児童文学振興財団 理事長
多数の童話・絵本の応募に触れて、創造のエネルギーと驚きに出会える冬限定の特別な楽しくて苦しい時間を過ごしています。活字なら何でも楽しく読める特技を持っていますのに、選者である故の選ぶ苦しみに遭遇しているのです。
苦しみが喜びに変わるツボは、匂いを感じる、ぞくぞくする、情景が見える、音が聞こえるなど、五感のどれかに反応するときのようです。これまでにない物語、リズムのある心地よい文章、思わず笑う話など、読者を誘い込む新鮮な作品への期待は、年々、増していきます。
杉田 豊
絵本作家
昔、ある少女が、絵本づくりの人に『考えるからいけないの。感じるままにつくるのよ』と言われたと聞きました。私はつい最近その通りの失敗をしてしまいました。永いこと絵本を描いているのにと自らを恥ました。
人は優れた作品に影響され、修練中に技術的な傾倒をしてしまうことがあります。勿論無意識にです。それが消化され、その人でなければと言うデッサン力のリズムが生まれればと描き続けている事でしょう。原画を見ていますと、それぞれの感じる世界が見えます。
篠崎 三朗
絵本画家
今回も、たくさんの応募作品の審査をさせていただきました。絵とストーリーの面白さ、新鮮さ、単なる技術的な完成度だけではなく、オリジナル性、ユニークさなどの観点から選考を致しました。
毎回、気になることは、絵本として重要なポイントでもある、文章の入るスペースが、全く視覚的な考慮に入っていない作品が、数多くあることです。文章の入る絵本の場合は、絵と文の調和がとても大切な要素になってきますので、下図の段階から常に文字のスペースを意識して制作してください。
志賀 俊之
日産自動車(株)副会長
日産自動車はさまざまな分野で社会貢献活動に取り組んでいますが、なかでも―「日産 童話と絵本のグランプリ」―は最も長い歴史をもつ活動です。私たちはグランプリを通じて優れた作品や作家の誕生をお手伝いできることを誇りに思います。これもみなさまの温かい継続的な支援の賜物と感謝しております。私たちの絵本の寄贈活動を通じて作品がより多くの人の目に触れ、このグランプリから生まれた本との出会いが、次世代を担う子どもたちの創造力を育み、健やかな心の成長の糧となることを願ってやみません。これからもみなさまのご協力をいただきながら、「日産 童話と絵本のグランプリ」に取り組んで参ります。