第30回(2013年度)選評

あまん きみこ

童話作家

今回も作品を繰り返し読んでいる時、皆さんがかけがえのない世界を表現しようとしておられることを強く感じました。思いを凝らして書き続けている時(それは苦しい時間であっても)不意に目の前が展ける瞬間がありますよね。この不意の時間こそが作者にとっての発見であり、至福の時ともいえるでしょう。けれど時折、この発見に溺れる怖れを感じます。そこで読者の目で、特に子どもの目になって読み直し考え直さねばならない--これは私自身に放たれる痛い矢の言葉でもありますが…。

松岡 享子

(公財)東京子ども図書館 理事長

いつも感じることですが、みなさまのこのグランプリに応募しようという熱意、また作品を生み出ために注がれたエネルギーに敬意を抱かずにはいられません。入賞するしないにかかわらず、集中してすごした時間がみなさまの宝物だと思います。

わたしが今心配しているのは、作品に描かれている子どもたちが活力という点で年々弱くなっているように感じられることです。現実が反映されているのだと思うのですが、それだけに子どもたちの将来が案じられます。

三宅 興子

(財)大阪国際児童文学館 理事長

これまでに、世界では、数えきれないほどの物語が生み出されてきました。そして、いまも、どこかで、新しい物語が誕生していることでしょう。不思議に思えますが、それは、ひとり、ひとりが語りたい自身の物語を持っているからに違いありません。

すでにある豊かな物語の海に、自分の物語を加えるのは、とても自然で生きている証だと感じます。

難関は「読者にどう伝えるか」です。作者から読者への橋渡し役の選者として、童話や絵本でないと表現できない世界との出会いを求めています。

杉田 豊

絵本作家

絵本制作では、絵の表現技術が一番大切な要素であることは言うまでもありません。近年、写実的タッチで、生活周辺の風景を緻密に描く作品なども見られます。

それぞれ特徴ある画面の出現を願いながら創り上げた舞台の登場です。絵本は実際に見えない世界を見せてくれます。描き続けていると、リズムが自分の感覚に響く時、新しい画面が見えてきます。

もう一つの大事な要素の筋立て、文章とのハーモニーが助けになってメッセージが伝わります。勿論、絵からも話しかけてくるのです。

篠崎 三朗

絵本画家

今回も、どんな絵本に出合えるかと楽しみに審査をさせていただきました。

絵の表現法もバラエティーに富み、それぞれの工夫が感じられ、絵本づくりの面白さが伝わってきましたが、文章の入る絵本の場合、絵を描くことのみにとらわれて、文章の入るスペースを全く考えない作品が数多く見受られました。「文字も絵のうち」という言葉通り、絵と文章が一体となって絵本をつくりあげてゆくものであり、このような空間の処理のことも、制作の過程の中で常に考えておくことが大切なことであると思います。

志賀 俊之

日産自動車(株)副会長

今年、「日産童話と絵本のグランプリ」は30周年を迎えました。社会が大きく変化する中、30年に亘り本グランプリを通じて多くの作品を生み出すお手伝いができたことを誇りに思います。改めて応募者ならびに関係者の皆さまに御礼申し上げます。この30年で子どもたちを取り巻く環境もまた変わりました。が、優れた童話や絵本がもたらす価値は衰えることがありません。むしろ、ますます複雑化する世界に立ち向かっていく子どもたちにとって、その重要性は増していると言えるでしょう。私たちはこれからもこのグランプリを大切に育て、「子どもと本」の分野で貢献して参ります。