第29回(2012年度)選評

あまん きみこ

童話作家

今回、嬉しい事に様々な声の作品に出会いました。一編一編を楽しみ読み終えた時、私は立ち竦む思いがしました。纏まりの良い作品が全体、前に出ず後ずさりもせず身を寄せあっていたからです。二回三回と読み返すことで、それが広がりほっとしました。確かに作品そのものの水準は、どれもあがっています。ただ応募原稿は水準を打ち破る力がいると、この度は強く感じました。幾つもあった「惜しい」世界を大切にしてほしい─それこそ、次の出会いの飛躍となるでしょうから。

松岡 享子

(公財)東京子ども図書館 理事長

私の担当は主に童話の部ですが、絵本の方もストーリーや文章を中心に審査する機会をいただいております。両方を比べると、絵本の方が、何度も応募される方が多いように思われます。(審査時には作者のお名前は伏せられているのでスタイルや手法から推察してのことですが)。その熱意と、持続力にはいつも感心させられています。くり返し挑戦することが必ずしも入選につながるとは限りませんが、一時の迷いや停滞を含めてもなお継続は前進につながることを、みなさまから教えられております。

三宅 興子

(財)大阪国際児童文学館 理事長

作品を「創るひと」と「読むひと」の関係には微妙で興味深いものがあります。「文章にぎこちないところが残っている」「着想はいいのに、終わり方が平板」「こぎれいにまとまりすぎた」など、「ここが惜しい!」という声が、審査中に自然に出てくることがよくあります。

批評的な目を持つ「読むひと」がいつの間にか「創るひと」と重なって読んでいるのです。

「創るひと」も、作品を推敲する過程で「読むひと」になっているはずです。自分の作品の「ここが惜しい!」が見つかりましたか。

杉田 豊

絵本作家

僅差で順位が決まる絵本の審査は緊張感で漲ります。今回も最終選考に残った作品は、それぞれユニークな表現で並んでいました。

全体のレベルは高いのですが、突出した存在感で審査員の視線を集中させる力量には少々足りません。殆ど絵の表現技法の基盤から独自性のある特徴を見定めます。

そこで僅差を競り勝つものは何かと申しますと、作品の持つ独特なアトモスフィアが伝わってくるかどうかです。簡単には絵の語りは聴こえません。唯只管描き続けるのも大切でしょう。

篠崎 三朗

絵本画家

今回もたくさんの力作がそろえ応募していただいた皆様の熱意が伝わってきます。絵本は絵画とは違い絵を見せるだけではなくドラマとしての表現力が問われます。映画やテレビのドラマと違って、画面は動かず音もせず、それだけに絵と文との関わりが、大切になってきます。絵本の一場面は、一冊の絵本の中での一場面と常に考えて作品創りをします。読み手に対し、ページをめくる、楽しみや期待感のもてる、ドラマチックな絵本に仕上て行くことが大切なことだと思っています。

志賀 俊之

日産自動車(株)最高執行責任者

今回より、日産の社会貢献活動の中で最も長い歴史をもつ本グランプリの審査員を務めることになりました。幼少期にすぐれた本から受ける刺激は心の栄養となり、人生を豊かにするとともに、たくましく生き抜く力を与えてくれます。さまざまな場面で「多様性」の大切さが叫ばれる昨今、童話や絵本に心躍らせる体験が子どもたちの想像力を養い、異なる考え方や文化を受け容れる寛容さを育むのではないかと考えます。私たちはこのグランプリをはじめ、「子どもと本」を通じた社会貢献活動をこれからも継続してまいります。