第28回(2011年度)選評
あまん きみこ
童話作家
今回は楽しい面白い作品が多かったと思います。リアリズム、ファンタジー、ナンセンスの中に、はじける笑い、にっこり笑い、ほっこり笑いが、様々な形で描かれていました。千年に一度といわれる災害が起こり、なお続いているこの国で、書き手も明るい世界を探し求めているのでしょう。「書く事は孤独だが常に社会と繋がってなければならない。更に私達の相手は子ども達ですよ」と言われた師の真摯な表情を思い出しました。書く事を生きる証(あかし)として応募された方々の次の飛躍を待っています。
松岡 享子
(財)東京子ども図書館 理事長
今回は選評に代えて審査員としての感想をひとつ。選ぶという作業はなかなか難しくて、数多くの作品をいちどに読んでいくと、初めと終りで評価の基準が微妙に違ってくるように思われて心配になったり、優秀賞と佳作の間にこれという決め手になる差を見出せなかったりと苦労します。それでも、他の審査員の先生方のご意見を聞き、話し合いを重ねていくと、それぞれの作品の特徴が見えてきます。到達した結論は、やはり落着くところへ落着いたなと思えるもので、一同ほっとするのです。
三宅 興子
(財)大阪国際児童文学館 理事長
多くの応募作にふれながら、一篇の童話と一冊の絵本は、それぞれ独立したひとつの世界で、それらを創るひとは、この世界に小さな星を新たに送り出しているようだと感じていました。そして、ひとつひとつの光が届くと、こころにすっと入ってくるものと、そうではないものに別れていきます、自然に。うまく入りこめない作品は、言葉が障害になっていることが多いようです。その作品にふさわしい言葉を、一層、磨きに磨いていただけたら…と願わずにはいられません。
杉田 豊
絵本作家
かつて杉浦範茂さんが筋違いのつむじ風の吹くのを待ち望んで、ワン・パターンをかく拌する変動が現れるのを良しと言われました。
選考する側に居ると同様の期待感を持ちます。確かにここ二・三年新しい風が一寸吹いたと思いましたが、残念ながらその緊張感が元に戻ってしまったようです。また負の要因が魅力になり、磨けばキラリと輝く原石になり得ると言うようなことも書かれていました。以上受け売りですが、奇をてらう技ではなく自分の素直な目線で勢いよく向かう事を願います。
篠崎 三朗
絵本画家
作品を拝見して、感じたことは、絵本の絵として描かれているものが、文章の説明的な絵に終ってしまったような作品を多く見かけました。
絵本の絵は、言葉と響きあって更に高まって、絵と文が一体となって、完成度を高めています。絵の表現的技術力も大事ですけど、それ以上に、絵本の世界だからできる、魅力的な表現法、空気感などが大切です。私は絵本づくりのとき、自分が舞台の演出家になったつもりで、役者をきめ、照明、コスチューム、背景等々をきめ絵本づくりを楽しんでいます。
川口 均
日産自動車(株)常務執行役員
昨年は東日本大震災をはじめとする多くの自然災害に見舞われ、日本中が不安や困難に直面した年でした。こうした中、無事に大賞作品を生み出すことができましたのは、ひとえにこのグランプリを支えてくださる皆さまのご尽力の賜物と心より御礼申し上げます。困難を乗り越え未来を築いていく子どもたちに、童話や絵本は強い味方となって生きる力を授けてくれることでしょう。私たちはこれからもすばらしい作品や作家の誕生に貢献し続けたいと願っています。