第27回(2010年度)選評
あまん きみこ
童話作家
今回は昨年より形が整い纏まっている作品が多かった気がします。
それでいて大賞がだされなかった事が残念でなりません。選考会では、数点にしぼりこまれた作品を前にして長い話しあいになりました。どの作品もそれぞれの輝きがありながら「これこそ」という声にならなかったのは最終的に些細なところで露呈する生な文章が問題になったからです。とにかく惜しいのです。どうか書きあげた時、その作品を身から離して読み直して下さい。次回の「完成」にであえる事を楽しみにしています。
杉浦 範茂
絵本作家
かなり以前の話です。或る結婚式に新郎側から招待され、祝辞をたのまれました。新郎を評して「憎めない若者」と褒めました。いわゆる優等生に対しては使わない言葉です。粗相・失敗・破綻はあるけれど、それらに敗けない魅力を備えている。換言すれば負の要因そのものが魅力になるという訳です。このような作品を創りたいと思います。新人の登竜門的コンペで、そのような作品が応募されれば審査員はドッキリします。
その上キラリッと輝いている筈です。
選評でなく申し訳ありません。
杉田 豊
絵本作家
絵本の制作は苦労が多いと常に思いますが、目標を見定め迷いから抜け出したと自覚した時、人は不思議な力を授かり、大きなシャボン玉の中に入ったように運ばれて描き出します。身軽になりました。気付くと、目の前にいつもとは違う絵があります。すっかり肩の力が抜け、気になる所もありません。
今回の選考でそれぞれ優れた技術を苦もなく、自由に描きこなした異なる作品に出会えました。
ただ今度はこの絵とバランスのとれた言葉探しが難しいのです。
松岡 享子
(財)東京子ども図書館 理事長
絵本も童話も、自分の中にあるものを表現したいという意欲から生まれるのですが、できあがった作品が読者の心に届くには、それなりの道筋ができていなければなりません。その道筋のひとつがストーリーです。ちょっとしたエピソードや、心に浮かんだイメージをそのまま表現するのでなく、それをつなぐライン(線=筋立て)をつくってほしいと思います。
よいストーリーがあれば、制作に注ぎこまれた時間とエネルギーがもっと生きるのに、と惜しまれる作品が目につきましたから。
川口 均
日産自動車(株)常務執行役員
日産自動車はさまざまな分野で社会貢献活動に取り組んでいますが、中でも「ニッサン童話と絵本のグランプリ」は最も長い歴史をもつ活動です。私たちはグランプリを通じて、すぐれた作品や作家の誕生をお手伝いできることを誇りに思います。このグランプリから生まれた本との出合いが、次代を担う子どもたちの想像力を育み、健やかな心の成長の糧となることを願ってやみません。これからも関係するみなさま方のご理解とご協力をいただきながら、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」の発展に力を注いでまいります。
三宅 興子
(財)大阪国際児童文学館 館長
たくさんのご応募をいただいて、そのなかから優れた作品を見つけ出すのは、私にとって胸躍る「いと怪しく稀有な」体験でした。
読み進みますと、「これはいい」という作品が自然に頭に残っていきます。激論をかわすことなく、選考が進んだのは不思議ではありませんでした。
童話に「大賞」にあたる作品がないということで一致したのは残念でしたが、練り上げる余地のある惜しいと感じた作品はありました。今後の熟成した作品に期待したいものです。