第24回(2007年度)選評
向川 幹雄
(財)大阪国際児童文学館 館長
以前にくらべると、おもしろさ、明るさ、暖かさといった一定のトーンで統一された作品、あるいは新しいアイデアが見られる作品が多くなりました。そのことはとてもたいせつなことですが、一方で、書き手の願いや怒りを内に秘めた作品がやや少ない感じがします。どうもお話を作ろうとする気持ちが先行しているのではないかと気になります。
難しいでしょうが、子どもの内面にふつふつとわく喜びや怒り、悲しみに目を向けた、作者の熱い思いの見られる作品を書いていただきたいと思います。
あまん きみこ
童話作家
今回は、どちらかというと纒まった印象の作品が多かったと思います。これらの作品を前にして(私が参加した中で)最も長い話し合いが続きました。それはどの作品も「輝き」と「しかし」の両方から指摘されるものがあったからです。その話し合いの中で自ずと大賞、優秀賞、佳作が決まりました。受賞はあくまで相対的なものでしょう。けれど書くとは「これしかない宇宙」、自分の中の絶対を探すことです。書いた絶対の世界を相対の波で洗いながら見つけるものの大きさを、改めて知りました。
松岡 享子
(財)東京子ども図書館理事長
毎年思うことですが、全国にこの「ニッサン童話と絵本のグランプリ」を目指して、創作に精進していらっしゃる方が何千人もいるというのはすばらしいことです。おそらく作品を生み出そうと夢中になっている時間が、みなさんの生活を、ほかではないやり方で充実させているのだと思います。その結果である作品が、子どもたちに喜ばれるものとなったら・・・それは、ほんとうに幸せなことです。自己表現から、他者―子どもの読者―とのコミュニケーションへ。さらに挑戦を続けてください。
杉田 豊
絵本作家
十数枚の見開き頁の絵で成り立つ絵本。その選考は張り詰めた空気の中で行われます。作品を見詰める目に一瞬、『これは!』と思える絵が映りました。期待を込めて一枚、一枚。しかしその緊張感が続かないことが多いのです。
絵巻物が絵本の原点とも言われますし、場面全部が一枚の絵であるとの解釈もあります。数点だけの絵が傑出していても全体のバランスのとれる流れが必要でしょう。また文章との有機的な連動も不可欠です。絵本づくりの難しさを改めて今回も認識させられました。
杉浦 範茂
絵本作家
今回の審査で17回目の審査になる私ですが、これ程決断力不足を感じたのは、かつて無かったことです。迷いに迷ったのは私だけでは無かったようです。予定の時間を過ぎても決着が付きませんでした。私なりに考えてみました。最終段階まで絞り込まれた作品は、どれも技量的にはかなりのレベルに達成しているのに、個性的な訴求力の稀薄さから、立ち挙がって迫って来る作品が無いのです。テキストに起因する点も大きいと思います。持てる技量という宝を十二分に発揮し、大暴れして下さい。
高橋 忠生
日産自動車株式会社
取締役
副会長
当社の伝統ある社会貢献活動であります本グランプリが今年二十四年目を迎えることができました。これも皆様の温かい継続的なご支援の賜物と感謝しております。この活動を通じて新たな才能にスポットライトをあて、作品を世に送り出すお手伝いができますことを大変誇りに感じております。私たちの絵本の寄贈活動を通じて作品がより多くの人の目に触れ、次世代を担う子どもたちが豊かな心や創造力を育んでくれることを願っております。今後も皆様にご協力いただきながら「ニッサン童話と絵本のグランプリ」に取り組んでまいりたいと存じます。