第23回(2006年度)選評
向川 幹雄
(財)大阪国際児童文学館 館長
従来の応募作品にも、いじめや家族問題、あるいは平和や環境といった社会問題を扱ったものは多くありましたが、今回はこの分野に見るべき作品があったように思われます。ややもすれば、これらは声高になりがちになる中、今回の作品には文芸としての香りがあって、今後が楽しみです。
一方、既存の作風から抜け出せない作品もありました。創作の勉強にはそうした段階も必要ですけれども、創作発表となれば別です。それぞれの独自な見方・表現をだいじにしてください。
あまん きみこ
童話作家
表現せずにいられないもの_私達は、それを抱えているからこそ、なんとか形にしようと書き続けているのでしょう。今回、その思いを強く感じる作品が幾つかありました。そしてその中には「惜しい」と呟いてしまう世界があったのも事実です。作者は、自らの内的宇宙を信じるだけではなく、読む側(それは子どもと大人を重ねあわせた)の目、耳、心になって自分の作品を見直すことが大切ではないでしょうか。楽しさ、面白さ、喜び、怒り、哀しさ・・・など新たに見えてくるものがある筈ですから。
松岡 享子
(財)東京子ども図書館理事長
子どもを取り巻く状況が厳しくなる一方の今日では、たのしい気持で絵本や童話を書くことはむずかしいでしょう。でも、そうであればあるだけ、読後に元気が出て、希望が湧く作品があってほしい。
やさしく、こまやかな心の動きをとらえる作品は多いのですが、ともすれば自分の内側の小さな世界にはいりこんでしまう傾向があるのは残念です。少々破綻があってもよい、日常からはみ出る勢いのよさ、底抜けの笑いや、遊び心が見られる作品を期待します。さあ、挑戦!
杉田 豊
絵本作家
応募作品数が前回と殆ど同じと聞き、一瞬作品の質は応募数とは関連がない、と言う自分に疑惑の目を向けるもう一人の自分が見えました。それは昨年のおとなしい審査会場を思い出したからです。
しかし今年は少し元気が見られました。最終選考に残った十数点の作品の順位は僅差です。技術面の向上を目指した巧みな描画に、無理のない筋立て、文章のリズムが加えられればと思います。ただメッセージに争いのない地球の平和の願いが浮上してきたのは特筆すべきことかもしれません。
杉浦 範茂
絵本作家
応募者の中には、いわゆる常連が何人か居られて、名前は伏せてありますが、あ、今年も出会えたと気付くことがあります。単純に考えればそこで目立つ訳で、一見有利と思われるかも知れません。しかし目立てば良いという訳ではありません。作品の場合二度三度と出会っているうち、その度ごとに鮮度は当然落ちます。これは選考の過程で明らかに不利です。広告の場合、最強のコピーは「新製品」ということを聞いたことがあります。初顔の有利さ・特権を味方に付けて大いに利用して下さい。
小枝 至
日産自動車(株)
取締役
共同会長
今年、本グランプリはニッサンの年とも言える二十三年目を迎えることができました。自動車業界では厳しい市場環境が続いておりますが、当社が社会貢献活動として、本グランプリを継続してこられたのも、皆様の継続的なご支援のおかげと感謝しております。大賞作品は例年年末に出版しておりますが、当社は全国の公立図書館に寄贈してきており、延べ冊数は十四万冊を超えました。これも当社が次世代を担う子どもたちへより良い童話や絵本を届け、未来を創造する力を養ってくれることを願うからであります。今後も皆様のご支援のもと、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」に取り組んでまいりたいと存じます。