第22回(2005年度)選評
向川 幹雄
(財)大阪国際児童文学館 館長
必要があって長年短篇を読んできました。短い文字数で一つの世界を作りあげるのは至難でなかなかいい作品が見つけられず、出会ったときには宝石でも見つけた気持ちです。今回このグランプリ選考に参加して、将来が楽しみな作品をいくつか見ることができました。表現には書きたい、訴えずにはいられないという内なる叫びが必要です。芸術作品ですから、もちろん技術が求められます。その点では巧みになっていると思いましたが、骨太で批評精神に満ちた作品が現れてほしいと思います。
あまん きみこ
童話作家
今回はバランスのとれた作品が多かったように思います。リアリズム、ファンタジー、ナンセンス、それぞれの世界を楽しませてもらいました。楽しむだけではなく入賞入選をきめなければなりません。そうなるとちょっとした傷がある作品は、どうしてもおりてしまいます。「惜しいなあ。ここを少し考えてほしかった」と思う時です。どうぞ書き終えたとき主人公に身をおいて共に動いてみてください。動きにくい時は作品を見直してください。それからの推敲は、苦しくても力をもつ筈ですから。
松岡 享子
(財)東京子ども図書館理事長
審査員としての経験年数が増したことで、審査に対する自分自身の気持に新鮮さが薄れてきたせいかなとも思うのですが、応募作品の方も、全体にどこか足踏みしている感を否めません。
最初の「思いつき」は、作品の核になるものですが、そこからすぐ「形にする」「表現する」方向へ走り出すのでなく、ご自分の中にある「思いつき」の根を掘り起こし、確める方向にも力を注いでください。文章や、ことばのひとつひとつを吟味することは、そのための助けとなります。
杉田 豊
絵本作家
創作絵本の審査は難しいことです。選考の進行では絵が中心になることは当然で、絵本の流れとしての統一と変化のある独自な絵になっているかどうかを見ます。
優れた作品に絞り込まれる頃は筋立て、文章なども一緒に検討されます。最終段階には厳しい雰囲気になることがここの所毎回です。絵の出来栄えとは格段の違いになってしまうのです。今回の選考でも同様でした。『絵本は絵が語ります』と日頃呟く私ですが、それでも絵の表現とバランスのとれた文章の創作をと願っております。
杉浦 範茂
絵本作家
大幅な応募作品減少の原因が掴めないまま、少数精鋭を期待して審査を進めて行きました。しかし、期待している程精鋭が登場してくれません。この場合、応募作品の数と、その作品の出来・不出来とは何の関係も無いように思うのですが、量の下降が質にまで影響を及ぼすものなのでしょうか? 審査を終って受賞作品個個で見れば、それ程の差は感じませんが、応募作品全体から受ける印象は、ちょっとおとなしい年ということにならざるを得ません。来年は、わんぱくな作品に会えますように……。
小枝 至
日産自動車
取締役
共同会長
皆さまの温かいご支援のおかげで、このグランプリも開始から二十二年を数えることとなりました。この活動を通じて、優れた才能をもつ新人作家を世に送り出し、子どもたちにすばらしい作品を届けるお手伝いができることを誇りに思います。次世代を担う子どもたちが童話や絵本を通じて豊かな想像力を育み、未来を創造する力を養ってくれることを願って、今後も皆さまのご協力を頂きながら、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」を大きく育てて参りたいと存じます。