第21回(2004年度)選評

中川 正文

(財)大阪国際児童文学館 理事長兼館長

創作するということは、作者が自分だけの独自の世界をきりひらいていくことと同時に、それを受容してくれる人びとの共感を得るものでなければなりません。

その点でモノを創るということは孤独であるだけでなく、深く社会とつながる仕事でもあるのです。

とりわけ私たちには、子どもという大切な存在があります。

「子ども忘れ」などという非難も聞きますが、このグランプリはそれらをはねかえす強い意志を表現する場所にしたいものです。それがお互い、責任であるかもしれません。

あまん きみこ

童話作家

今回の候補作品は読みおわった時、全体に足ぶみしているイメージがありました。けれど「あとあじ」のよい作品が多かったと思います。それぞれの声で自分の世界を探しておられる、みつけようとされている思いが伝わってきました。読み手としては嬉しいことです。それでもこの作品世界が子ども達の心にまっすぐ届くかと問われる時、立ち止まってしまうことが度々ありました。

童話を書き続けている喜びと怖れを、私自身も書き手として厳しく問われる思いの選考会でした。

松岡 享子

(財)東京子ども図書館理事長

選評に代えて、これから応募しようかな、と思っている方々へのメッセージをひとこと。これまでの入賞作品を研究して、その傾向をさぐり、それに合わせるような作品を生み出そうなどとお考えにならないでください。

審査員として毎回期待しているのは、これまでになかったような、新しい作品の出現です。創作を志すほどの方なら、だれしもご自分の中にエネルギーの鉱脈をお持ちのはず。どうかそれを掘り当てて、そこから噴き上がってくるものを作品にしてください。

杉田 豊

絵本作家

十数枚の見開き頁の絵のレベルを揃える難しさを常に感じているのに、選考する側に立つと、重箱の隅を突っつくような詮索する自分の姿に恥ずかしくなります。その上筋立て、文章の出来は絵と共鳴するバランスがあるかどうか?まで口に出してしまいます。

いちべつして魅せられた絵に出会った時、気持が高まり順を追って見ていきますが、その興奮が徐々に冷めてしまいました。絵本の絵は語り手です。つくり手独特の描く技術が読者の心を揺るがすでしょう。願います、そんな絵を。

杉浦 範茂

絵本作家

前年が第二十回という区切りの年で、応募の皆さんも区切りをつけたのか、点数だけでなく全体にレベルは低くないのですが、おとなしい作品群と言った感じでした。新人の登竜門的なコンペとしては少々レベルが低くても、将来性が予感される元気溌剌な作品に出会いたいものです。作品が持つ迫力・元気が、読者の元気の基をくすぐり、それらを読者に移行するという本の特技を充分発揮出来る作品を待望します。今回は反省材料として、読者の捕球能力に対する匙加減の難しさを痛感しました。

小枝 至

日産自動車 取締役共同会長

昨年、二十周年の節目を機に、本グランプリの審査員に加わらせて頂きました。新しい才能を持つ作家の方々が、プロとしての第一歩を踏み出すお手伝いができるのは、このうえない喜びです。また、優れた作品を子どもたちに届けることは、私どもの社会貢献活動のミッションである「未来への投資」そのものであると考えます。これからも数々の良質の作品が誕生し、子どもたちの創造力を育む糧となることを願ってやみません。今後も皆さまのご支援のもと、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」に末永く取り組んで参ります。