自動車開発の最前線は、必ずしも灼熱のテストコースや極寒の雪道だけにあるわけではありません。静まり返った、薄暗い実験室の中に置かれたコンピューターの中にも存在します。そこには、日産の高度な運転支援技術「プロパイロット」を支え、さらなる高みを目指すエンジニアたちの地道な、しかし熱き挑戦の連続がありました。
「進化を続けるプロパイロット」は上下編です。
まずは、「プロパイロット」のシステムが正しく機能することを仮想空間で確認する今井・山田のストーリーをお届けします。
実車で性能評価を行う、(下)はこちらです。
基礎技術の開発から20年の時を経て
今から20年以上前。AD(自動運転)/ADAS(運転支援技術)&車両性能実験技術開発グループのチームリーダー、今井 浩二は、まだ「自動運転」が将来技術だった時代から、最先端の車両制御で追い求めてきました。新入社員として配属された頃、向き合っていたのはABS(アンチロックブレーキシステム)やVDC(ビークルダイナミクスコントロール)といった、車の挙動を制御する基礎技術でした。
「当時は、スピンしそうになったクルマのトルクをどうコントロールするか、そういう技術を開発していました」と振り返る今井
そして2016年。日産はセレナに「プロパイロット」を初搭載します。この時、今井たちが心血を注いだのが、実車を使わずに、システムが正しく機能することを仮想空間で確認する「HILS」(ヒルズ、Hardware in the Loop Simulation)という技術の確立でした。前のクルマの速度にあわせて走る技術から、ドライバーのハンドル操作まで支援する高度なシステムへ。その進化の裏には、想像を超える数のシナリオ評価があったのです。
2300という巨大な壁
現在、チームのホープとして現場を率いるのが、山田 祐介です。担当するのは「プロパイロット 2.0」。高精度地図(HDマップ)とGPS、そして周囲360度を監視するカメラやレーダーを駆使し、高速道路でのハンズオフ走行(単一車線)を可能にするシステムです。
「プロパイロット」から、「プロパイロット 2.0」への進化により、クルマの性能評価は難易度が劇的に上がりました。「プロパイロット」の評価項目はおおよそ1000項目でしたが、「プロパイロット 2.0」ではそれが2300項目以上にまで増えているのです。
先行車の急制動や急な割り込み、あるいは居眠り運転や関連部品の故障など、公道では再現が難しかったり、実車では試せなかったりするような極限状態を、HILSという仮想世界の中に構築し、2300もの「試練」をシステムに課していきます。
「もし2300の項目を全て実車で確認しようとすれば、数ヶ月どころか年単位の時間が必要になります」と山田
次なる地平「プロパイロット」は次世代へ
チームには、一息つく暇もありません。日産は2027年度に、さらなるイノベーション「次世代プロパイロット」を搭載したクルマを投入します。高精度地図に頼らず、AIが自ら周囲を認識し、複雑な一般道をも走破する、まさに「異次元」の進化を目指しています。
「これまでの認知・判断・操作というルールに基づいたロジックとは、根本的に考え方を変えなければならない」と、今井と山田は口を揃えます。AIが何を考え、どう動くのか。「未知の領域への挑戦で、ワクワクしているのです」と山田。「新しい物差し」を今、ゼロから作り上げようとしています。
東京・銀座の街を駆け抜ける「次世代プロパイロット」の開発試作車。2025年9月にデモ走行を行った
変わらぬ「ゴール」を見据えて
技術がどれほど進化し、評価のツールが移り変わろうとも、今井たちが決して見失わないものがあります。それは、ハンドルを握る「お客さま」の存在です。
「最終的なゴールは、お客さまがどんなシーンで使っても、違和感のある挙動が起きない、安心できるクルマをお届けすることです」
「プロパイロット」が次の角を曲がり、新しい景色をみせるその瞬間まで、エンジニアたちが立ち止まることはありません。
今井・山田の厳しいチェックを経て、システム側の機能確認が完了したプロパイロットは、いよいよリアルな試験場での実走テストに入ります。
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