シーズン9(2022/2023)の後半、オリバー ローランドがフォーミュラEの舞台から姿を消した時、多くの人が「これで彼のフォーミュラEでのキャリアは終わったのかもしれない」と心配したことでしょう。イギリス人ドライバーとして大きな期待を集め、並外れた才能を見せてきた彼でしたが、それまでの勝利はわずか1回だけだったからです。
だからこそ、日産フォーミュラEチームがシーズン10を前にローランドの復帰を発表したとき、多くの注目が集まりました。彼とチームは、過去2年間の苦戦を乗り越え、再びフォーミュラEでの道を切り開こうとしていました。

「私にとって大きな転機は2年前、シーズン途中で活動を止めたときでした。あの時は、楽しめなくなっていました。モチベーションが下がっていて、望む結果を出すことが難しいと感じていたので、大きなリスクを取って決断をしました。でもあの決断が、長期的に見て正しい決断だったと思っています。もう一度、正しいアプローチで日産フォーミュラEでのチャンスを最大限に活かす必要があると気づくことができたんです。」と、タイトル獲得後にローランドは振り返りました。

シーズン10(2023/2024)に復帰後すぐにローランドは実力を発揮し、ディルイーヤ、サンパウロ、東京で表彰台に上がり、ミサノではシリーズ2勝目を挙げました。ポートランドでのダブルヘッダーを病気で欠場したこともあり、タイトル争いには届きませんでしたが、最終戦のロンドンで勝利を収め、シーズン11への道を自ら切り開きました。
「昨年は自分に対してあまりプレッシャーをかけずに臨みました。レース効率の面では最高のマシンではなかったので、学びの年として捉え、そこから最善のシナリオを組み立てることに集中しました。過去の失敗から学び、フォーミュラEで勝つために必要なことを考えました」とローランドは語ります。
サンパウロでのシーズン11(2024/2025)開幕戦では、パワーオーバーによるペナルティで勝利を逃しましたが、その後8戦中7戦で1位または2位に入り、圧倒的なリードでチャンピオン争いを展開。ローランドは自身の走りを支えてくれるチームを信頼し、リスペクトしています。
「チームの最大の強みは、全員が常に向上を目指していることです。フィードバックは個人的に受け止めず、前向きに捉えて改善の機会とします。勝てない週末もありますが、現実的な目標を持って取り組んでいます」

「日産に戻ったとき、チームのマネジメントは私を信じてくれました。エンジニアチームのメンバーの多くが変わっていたけど、トマソ(ヴォルペ)とドリアン(ボワスドロン)が正しいマインドセットを持つ人材を集めてくれました。細かい部分まで完璧に仕上げる必要があったので、チーム全体に感謝しています」
チャンピオンシップ争いで大きなリードを持っていても、ローランドは油断しませんでした。フォーミュラEの予測不可能さと接戦の中では、何も保証されません。過去のシーズン6や10では上位にいたものの、タイトル争いの中心人物ではありませんでした。しかし今回は、シーズン中盤から「タイトルは時間の問題」と言われるほどのリードを築いていました。
「フォーミュラEに来たときは速さはありましたが、タイトル争いには絡めませんでした。自分の能力を疑うこともあって、レースに出るたびに『頑張らないと結果は出ない』と思っていました。でも、今回はチームもマシンも良くて、最初の数戦で『戦える』と感じました。これまでとは逆で、追う立場ではなく、リードする立場だったので『失敗しないように』という思いが強くありました。周囲は『いつタイトルを取るか』という雰囲気だったけど、僕にとってはそうではなかったのです」
「上海とジャカルタでは、まだ終わっていないと感じていました。ジャカルタを終えて69ポイント差をつけて少し安心しましたが、それでもパスカル(ウェーレイン)が好調で僕が不調のレースがあれば一気に差が縮まる状況でした。ベルリンの土曜は3番手スタートで安心しましたが、レースではミスをしてしまい、パスカルが好成績を収めたのは残念でした」
「日曜のレース前は不思議な気分でした。緊張と感情が入り混じっていて、泣きそうなほどだったのです。パスカルがポールポジションを獲得したので、ダメージを最小限に抑えることが目標でした。でも、フォーミュラEらしく、結果は逆転しました!」

ローランドのこの2年間の歩みは、日産との再契約前には想像すらできなかったものでした。本人もまだ実感が湧いていないといいます。
「まだ『世界チャンピオンになった』という実感がありません。そのうち実感すると思うけど、まだ皆からもらったメッセージも全部読めていないんです。2023年の夏からの旅は本当にクレイジーでした。契約がなくて眠れない日々もあったし、キャリア的にも精神的にも厳しい状況でした。そこから立ち直って今の位置にいることは本当に幸運だと思います。フォーミュラEにはそういう挑戦と感動があると思います」
「自分の中では、僕らが成し遂げたことを少しずつ実感し始めていて、それを前向きに受け止めながら、気持ちの整理をしているところです。ドライバーがこういう話をすることは少ないけど、ここ数日は色んな感情が一気に押し寄せました。肩の荷が下りて気持ちが軽くなった感じがします。最高の気分です。映像を見返しても、まだ信じられないくらいです」
今後、ローランドはシーズン11の最終戦(7月25〜27日)でロンドンの地元ファンからチャンピオンとしての歓迎を受ける予定です。チームとしては、チームタイトルとマニュファクチャラーズタイトルの獲得も目指しており、ローランドはフォーミュラEでの未来に期待を寄せています。
「僕のキャリアの終着点はフォーミュラEだと思っています。すぐに終わるとは思っていないけど、シリーズとともに成長し、去るときにはより良い形になってほしいと願っています。もっと速いマシン、もっと進化した技術になってほしい。今の自分の立ち位置にはとても満足しているし、チームとこれまでの成果を誇りに思っています。日産はモータースポーツの歴史が豊富だけど、今回の成果はその中でも特別なものだと思います。多くの時間と努力、リソースをこのプロジェクトに注いでくれたので、私だけでなく日産ファミリー全体にとって嬉しい結果です」