コールドスプレー バルブシート
e-POWER発電特化型エンジンの高効率を実現する世界初のバルブシート構造
e-POWERはエンジンで発電し、100%モーターで駆動する日産独自のハイブリッドシステムで、2016年の市場投入以降、その性能を進化させてきました。2025年より投入する第3世代は発電特化型エンジンを搭載し、STARC※1コンセプトという独自の燃焼技術により、熱効率42%を達成しています。この燃焼技術においては、吸気ポートと燃焼室をつなぐバルブシート部の形状が重要で、理想の吸気ポート形状を実現するため、自動車用エンジンとして世界初となるコールドスプレー工法※2を用いたバルブシートを開発しました。
- STARC(Strong Tumble and Appropriately stretched Robust ignition Channel)とは、日産が2021年に発表した高い熱効率を実現する燃焼コンセプト
- コールドスプレーとは、粉末材料を超音速で吹き付けて被膜を形成する技術で、2000年代から航空・宇宙産業や重工業などを中心に発展し、表面改質以外にもadditive manufacturing(材料を層ごとに積み重ねて物を作る製造方法)などに応用され、近年注目を集めている技術

新開発エンジンのシリンダーヘッド
技術の働き
STARCコンセプトで重要なのは、吸気ポートから燃焼室へ入る空気流の乱れを極限まで抑え、強いタンブル流を形成することです。
一般的なエンジンの吸気ポートは、焼結材で作られたバルブシートを圧入する構造のため形状に制約があり、タンブル流の形成に理想的な形状にすることは困難でした。新開発のコールドスプレー工法を用いたバルブシートは、シリンダーヘッドの表面に銅系材料をベースにした専用材で被膜を形成することで、別体のバルブシートが不要となり、理想の吸気ポート形状を実現しています。

タンブル流イメージ
技術の仕組み
新開発のバルブシートは、アルミ合金製シリンダーヘッドの表面に異種の金属粉末を超音速で吹き付けることで強固な被膜を形成し、その被膜がバルブシートの役割を果たします。コールドスプレー工法を用いたバルブシートは材料の融点以下で施工するため、材料を溶融することなく異種材を接合することができます。これにより、レーザークラッドなどの溶融接合で課題となる被膜と基材の界面での金属間化合物の過剰生成によるクラック発生や基材が溶融することで発生する微小な空洞形成(ポロシティ)といった現象を抑え、類似工法と比べ高い熱伝導率でバルブ周りの冷却性を向上させるとともに、高い耐久性と信頼性を実現します。
材料は熱伝導性のある銅系材料をベースに、耐摩耗性に優れた硬質粒子材を選定し、コバルトフリーの専用材料を開発しました。材料を吹き付けるノズルは鍛造金型製造で培った研磨の匠の技を応用し、細穴内面へ鏡面加工を施した超硬ノズルの製造工程を確立することで、安定した生産を実現しています。

コールドスプレーバルブシートの断面図

コールドスプレー加工の様子