「見て、感じて、触れば分かる」―

とある新型車の開発が最終段階を迎えたとき、試作車の一台でドアの内側に水漏れが見つかりました。
「相当な量の水漏れでした」
そう振り返るのは、車室内への水漏れ防止性能を確保する「ドアシステム性能評価(水密性能)」のテクニカルエキスパート、船坂 渉です。

たった一台。しかし、私たちは試作車であっても、一台一台がお客さまの手に渡るクルマだという意識で向き合っています。お客さまにとっては、その一台はかけがえのない存在です。だからこそ、決して見過ごすことはできませんでした。

水の声を聴く:一滴の侵入も許さない日産の水密性能

水の声を聴く:一滴の侵入も許さない日産の水密性能3:54

水の“出口”から、“入り口”を読む

そもそも水はどこから入るのでしょうか。船坂は、室内に漏れ出た水の“出口”から、ドアの構造をたどって“入り口”を突き止めました。
実はドア内部に水が入ること自体は設計上、“想定内”です。そのうえで、ゴムパッキンが“最後の砦”となり、車室内への浸水を防いでいます。

問題は、その最後の砦を越えて、水が車室内へ入り込んできたこと。
船坂とチームの「読み解き」が始まりました。

ドア回りのゴムには、水の侵入を防ぐ微細な工夫が随所に凝らされています。

ドア回りのゴムには、水の侵入を防ぐ微細な工夫が随所に凝らされています。

原因はまさかの“硬さ”だった

船坂が率いるのは、日本を中枢とするグローバルチームです。アメリカ、イギリス、メキシコ、タイ、中国といった世界各地の生産拠点では、船坂から技術を受け継いだテクニカルエンジニアたちが同じ基準で水密性能を確認し、日産車の品質を支えています。人財と技術を育てることも、船坂の重要な役割です。

船坂とチームは、一滴の水の経路を追い続けました。そして突き止めた真因は、意外にも配線を束ねる「ハーネスの硬さ」でした。

「硬いハーネスが湾曲してついたクセによって、固定クリップがわずかに浮き、その隙間から水が車室内へ入り込んでいたのです」
チームは直ちに設計変更を行い、予定通りに量産を開始しました。

硬くクセがついていたハーネス。「これが水漏れの原因でした」

硬くクセがついていたハーネス。「これが水漏れの原因でした」

触ればその水圧がわかる

水が車室内に浸入してくる原因は、雨だけではありません。洗車時にも窓枠やドア回り、サンルーフなどから水が入り込む可能性があります。

「水漏れしない。これはお客さまにとって当たり前の性能です。だからこそ日産は、世界中のお客さまが実生活で遭遇するさまざまなシーンを想定して、試験を重ねています」

豪雨のなかでの走行や、家庭用高圧洗浄機やガソリンスタンドの高水圧洗車機による洗車など、さまざまな条件を再現し、厳しい試験をクリアしたクルマだけをお客さまにお届けしています。
しかもこの徹底した試験と品質基準は、特定の車種のためだけのものではありません。どのクルマもお客さまにとっては、かけがえのない一台。だからこそ、軽自動車の「ルークス」から、「キックス」、「エルグランド」まで、幅広い車種に同じ水密基準を適用しています。

触ればその水圧がわかる

一方で、水密性を高めるだけでは十分ではないと船坂は言います。
「徹底的に密閉すれば水は防げます。しかし、強い力で押し込まなければ閉まらないドアでは困りますし、気密性を高めすぎるとドアの開閉時に耳などに不快感が生じることもあるのです」

クルマの構造によっても条件は異なります。例えば、「フェアレディZ」に採用されているフレームのないサッシュレスドアは、スポーツカーらしい流麗なデザインを実現する一方で、水密性の確保が難しい構造でもあります。さらに、ドアの開閉のしやすさも維持しなければなりません。デザイン、水密性、使い勝手という複数の要素を高いレベルで両立させているのは、長年にわたり「Z」を進化させてきた日産ならではの技術です。

市場条件も変化し続けています。船坂は、米国で開催される世界最大規模のカーウォッシュショーにも足を運び、市場の変化を追い続けています。そこで見えてきたのは、家庭用高圧洗浄機の普及や洗車機の高水圧化などにより、水密性能に求められる条件が年々厳しくなっているということでした。
「今の基準が、将来も通用するとは限りません」

10年後の正解はまだ誰も知らない

10年後には、クルマの構造も市場環境も今の想像を超えてくるかもしれません。
だからこそ、船坂は、培ってきたノウハウや実験計画の立て方、新たな基準づくりを後輩たちへ伝え続けています。
「問題に直面したときに、答えを教えてもらうだけでは身に付きません。10年前の正解が、今では通用しないこともあります。だからこそ、自ら考え続けることが大切なのです」
一人ひとりが考え抜き、挑戦し続ける。その積み重ねによって、船坂の“勘どころ”は世代を超えたチームの財産となり、日産車の“当たり前品質”が守られ続けていくのです。

10年後の正解はまだ誰も知らない

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