日々の気づきをクルマのデザインへとつなげる、フイ チェンの視点
多くのカーデザイナーとは異なり、フイ チェンは幼い頃からクルマに憧れていたわけではありませんでした。
むしろフイが惹かれていたのは、デザインそのもの。大学でインダストリアルデザインを学ぶ中で自動車デザインに出会い、異なる専門性や文化、考え方をひとつに結びつけていくその奥深さに魅了されました。
その好奇心はやがて日産デザインチャイナ(NDC)へとつながり、現在フイはプロジェクトリードデザインマネージャーとして、NX8、テラノ、フロンティア プロなどの量産・先行開発プロジェクトに携わっています。
NX8とテラノでは、初期コンセプトやCMF(Color, Material, Finish)の方向性づくりから、開発、磨き込み、最終的な実現まで、カラーデザインを中心に担当してきました。 若手デザイナーの発想が、チームの力によって磨かれ、一台のクルマへと形づくられていく。その歩みを紹介します。
フイが手がけているのはクルマですが、その出発点はもっと広いところにあります。
- 「デザインとは、人々がどのように暮らし、何に価値を感じ、文化がものの見方にどう影響し、これから何を求めていくのかを理解することです。そうした観察が、未来のプロダクトへと形を変えていきます」
日常から学ぶ
フイにとって、インスピレーションは自動車の世界の外にあることが少なくありません。
ファッション、建築、プロダクトデザイン、展覧会、そして日々の暮らし。そうしたさまざまなものが、色や素材、クルマらしさについての考え方に影響を与えています。旅もまた、フイにとって大切なインスピレーションの源です。特定の建物や物そのものに影響を受けるというよりも、その土地で感じた雰囲気や空気感、そこで受けた印象が記憶に残り、後にデザインの発想につながることがあります。
- 「旅をすると、特定の物よりも、その場所の雰囲気を覚えていることが多いです」とフイは話します。「そうした印象は心のどこかに残り、デザインのムードやキャラクターを考えるときに、自然と思い出されることがあります」
流行している色を探すのではなく、人々がどのようなライフスタイルに惹かれ始めているのか、そしてなぜ惹かれるのかを理解することを、フイは大切にしています。
新しい世代に向けて、心地よさを見つめ直す
こうした考え方は、NX8の開発において重要な役割を果たしました。
若い中国のお客さまについてリサーチする中で、フイとチームは、人々が感じる心地よさが柔らかさ、広さ、従来のラグジュアリーだけで語られるものではなくなっていることに気づきました。人々は、空間の雰囲気、自然な素材、やわらかな色合い、そして日常の中に自然になじむテクノロジーに対し、より関心を向けるようになっていました。
興味深いことに、こうした気づきはクルマだけを見ていて得られたものではありません。
住まい、カフェ、インテリアブランド、家電製品、そして身の回りで変化している暮らしそのものから生まれたものでした。
そうした観察を通じて、チームは日産が長年大切にしてきた「快適さ」を新しい世代に向けてどう解釈できるかを探り、人々の今の暮らしにより温かく、自然に寄り添う表現へとつなげていきました。
色がキャラクターをつくるとき
その後、フロンティア プロに取り組む中で、フイは色の役割をあらためて認識しました。クルマの方向性が決まった後にふさわしい色を選ぶのではなく、コンセプトの段階から、そのクルマがどのように印象を与え、誰に語りかけ、市場でどのような存在感を持つべきかをチームで考えました。
CMFとスタイリングは常に密接に連携していますが、このプロジェクトを通じてフイは、色がデザインを引き立てるだけでなく、クルマの個性やキャラクターそのものを形づくる力を持っていることを実感しました。
異なる視点が、より良いデザインを生む
フイにとって、優れたデザインはひとりの人やひとつの専門領域だけから生まれるものではありません。
テラノのようなプロジェクトでは、同じ課題に対してチームメンバーがそれぞれ異なる視点から向き合い、その対話がクルマの見た目だけでなく、全体のキャラクターをより良いものへと磨いていきました。
そうしたオープンな姿勢こそ、フイがNDCで特に大切にしていることのひとつです。
自動車のデザインセンターと聞くと、クルマについての専門的な議論ばかりが行われている場所を想像するかもしれません。しかしフイによると、最もおもしろいアイデアは、日常の何気ない会話から生まれることもあります。最近行った旅、訪れた展覧会、同僚が共有した一枚の写真。
そうした小さなきっかけが、まったく新しい発想につながることがあります。そしてそれこそが、フイ自身のデザイナーとしての歩みを表しているのかもしれません。単にクルマをデザインするのではなく、人、場所、文化を観察し、その気づきをお客さまと意味のあるつながりを生むプロダクトへと変えていくこと。それがフイのデザインに対する向き合い方です。