2026.5.18
日産自動車株式会社 総合研究所ではこれまで、将来あり得る社会や価値観をビジョンストーリーとして描き、未来の生活を洞察しようとしてきました。
そのビジョンの解像度をさらに高めるため、SFプロトタイピングにも取り組んでいます。ビジョンストーリーを起点に、小説家の手を借りてSF小説を制作し、その世界の中では社会や人々の価値観がどのように変容し、そこからどんな課題やニーズが生じるのか検討を深めました。そして、どのような商品やサービスによってこうした課題やニーズに応えることができるのか、議論を重ねてきています。
2024年に制作した三つのSF小説では、技術が行き渡った社会の中で、人が何を大切にし、何に戸惑うのかが、登場人物の行動や感情を通じて描かれました。
(小説の元になったビジョンストーリーについては、こちらをご覧ください)
小説のあらすじをご紹介します。
読む方がご自身の経験と重ねながら、「自分ならどう感じるだろう」と考えるきっかけになれば幸いです。
あらすじ: 大学生の翔平の母・千尋は、老いに抗う技術を駆使して若さを保ち、翔平と同じ大学に通う。翔平はそんな母の生き方に複雑な思いを抱いていた。一方、母方の祖父母はそうした技術から距離を置き、穏やかに老いることを選んでいる。大学の課題で祖父母の元を訪れた翔平は、祖父に最新のドローンを体験させるが、うまくいかない。祖父との対話を通じ、翔平は、ただ技術を押し付けるのではなく、その人の人生や価値観に寄り添うことの重要性を学ぶ。そこで、祖父が好きだった「釣り」をドローンと融合させる改造を施すと、祖父はバッテリーが切れるまで楽しんでくれた。翔平が家族それぞれの生き方から、老いに抗う技術との付き合い方を考えさせられる物語。
ドローンに祖父が好きだった「釣り」を融合させると、祖父はバッテリーが切れるまで楽しんでくれた。
あらすじ: かつて自らの農業知識をAIに教え込んだベテラン技術者の小平。しかし、今やそのAIに職を奪われ、彼の仕事はAIの学習データ収集のための会議で相槌を打つだけになっていた。自動運転車で眠りながらの通勤や待たずに乗れるエレベーター。そんな快適さと引き換えに、スマートウォッチで常にバイタルを管理され、プライバシーと人間としての実感を失っていく日々に、小平は割り切れない思いを抱えていた。ある日、AIが完全管理する無機質な農場ビルで、農業体験用に植えられた野菜を収穫して喜ぶ子どもたちを見て、彼は自問する。「我々は何のために働き、誰に感謝されるべきなのか」。テクノロジーが浸透した社会における、人間の存在意義と尊厳を問う物語。
野菜を収穫する子どもたちから感謝を向けられ、小平は困惑する。
あらすじ: 人口減少により、数十年かけて自然に還す「トランジション・プロジェクト」の対象となった花房村。故郷を失った過去を持つ環境リサーチャーのタカダは、この村の歴史を記録(アーカイブ)する任務に就く。しかし村では、村を仕舞う決断を辛く思う村長、補助金で潤う村人、動物との共生を理想とする外部専門家など、それぞれの立場と思惑が交錯し、時に衝突していた。タカダは、村人へのインタビューや不法投棄現場の調査を通じて、プロジェクトの陰にある人々の葛藤や痛みに触れていく。森林や野原を自然に還すことが当たり前になった時代に、未来に何をどう託すべきか、アーカイブの仕事を介して模索する物語。
家々は朽ち始め、森は元気に育っている、この進行の様子そのものが観光資源だ。