研究通信

2026.09.07

研究通信#13

歩行者が横断歩道を利用するかどうかでドライバーからの見え方はどう違う?
〜服装色による視認性評価実験3rd stage〜

1.はじめに

 皆さんは、道路を渡るときに必ず横断歩道を利用していますか。横断歩道のない場所を横断する行為は大変危険です。

 警察庁の調査によると、2024年の歩行者の死者数は937人で、そのうち64%が道路を横断中の事故でした。横断歩道以外を横断した場合の死者数は、横断歩道を横断した場合の1.8倍です。また、道路横断中の死者は65歳以上の高齢者が多いことが特徴的で、横断歩道以外を横断した場合の死者数は65歳未満の4.2倍でした(図1)。

 このことから、歩行者の死亡事故のリスクを下げるためには、道路を横断する際は横断歩道を利用したほうが良いと言えます。しかし、横断歩道を横断していれば安全というわけでもありません。ドライバーからの歩行者の見えやすさは服装色によって異なりますが、環境によってどの程度異なるのか、ということはまだ十分にわかっていません。

 そこで今回は、「服装色 × 横断歩道」という視点から、ドライバーからの歩行者の見え方が横断歩道の有無によってどのような違いがあるのかを調査しました。今回の取り組みは、これまで本ラボが行ってきた“服装色による歩行者の見え方”(研究通信#4研究通信#8)に関する研究で得られた知見を活用して進めました。

図1 事故類型別歩行中死者数(2024年)

(引用データより制作:令和6年における交通事故の発生状況について 令和7年2月27日 警察庁交通局)

2.実験方法

 横断歩道の有無による歩行者の見え方の違いを実際の道路で調べる場合、交通量や天候、周囲の環境などの影響を受け、条件をそろえた比較が難しくなります。

 そこで本研究では、服装色や横断歩道の有無といった条件を複数設定し、同じ状況を再現できるVR(仮想現実)を用いて調査を行いました。VRを用いることで、実際の道路に近い環境を安全に再現し、条件の違いがドライバーの見え方に与える影響を検証できます。

2-1.VR環境での服装色の調整

 まずは、現実空間の特性をVR環境に正しく反映させるための色の調査を行いました。

 先の研究と同様(研究通信#4研究通信#8)に1/10のリアル実験室を作り、その空間に近似したVR色調整実験室を作成しました。そして、リアル実験室の1/10フィギアとVR色調整実験室のアバターのコートを見比べながら、服装色の調整を行いました(図2)。なお、コートの色は、これまでの歩行者の服装色に関する視認性評価実験で使用した、モノトーン3色(白・グレー・黒)(研究通信#4)と、有彩色5色(高彩度の赤・黄・緑・青・紫)(研究通信#8)の8種類を使用しました(図3)。

図2 リアル実験室とVR色調整実験室によるアバターの服装色の調整

図3 1/10フィギアとアバターの服装色一覧(各8色)
2-2.VR空間での実験条件

 次に、本実験用として一般的な道路環境を想定したVR実験空間を作りました。夜間に歩行者のアバター(以下、歩行者)が道路を横断している状況をVR空間で再現しています。実際の事故で多い、右から左への横断場面を再現し、ドライバーから歩行者がどのように見えるかを調べました。ドライバーから歩行者までの距離は、時速40kmで走行する車両が停止線で停止できる距離にしています。なお、歩行者は右側の街灯の下から横断を開始し、対向車線上を進みます。歩行者が対向車線上を進む時間は3.5秒間です。つまり、この間に歩行者を認知できない場合、事故の発生が避けられないことになります。また、前方奥に信号機を設置することで、ドライバーの視点を固定するようにしました。なお、歩行者の横断速度は後期高齢者の平均的な歩行速度に設定しました(図4)。

図4 VR車道実験空間の環境

 VRの実験システムは、横断する歩行者の服装色(8種類)と横断歩道の有り無しを切り替えられるようになっており、合計16種類の条件で実験を行いました(図5、図6)。

図5 本実験用のアバター8体(VR車道実験空間)

図6 横断歩道上を歩く様子(VR車道実験空間)
2-3.実験協力者と実験手順

 実験協力者は視力が0.7以上の19~25歳の若年者(男性11名、女性13名)、60~80歳の高齢者(男性10名、女性10名)です。実験は夜間環境を想定し、室内照明を落とした状態で実施しました。実験前には、暗所環境に視覚を慣れさせるため、約5~7分間、暗順応の時間を設けました。その後、VRゴーグル(Meta Quest 3(Meta社))を装着してもらい、VR車道実験空間内を横断する歩行者の見え方について回答してもらいました。

3.実験結果

3-1.気づきやすさの主観評価

 まずは、16種類それぞれの横断パターン(8色のスーツ × 横断歩道の有無)について、気づきやすさを5段階で回答してもらいました。

 すると、横断歩道の有無にかかわらず、白・黄・赤の3色は「非常に気づきやすい」「やや気づきやすい」と答えたものが多く、グレー・青・紫・黒は「非常に気づきにくい」「やや気づきにくい」と答えたものが多い結果となりました。緑は「どちらとも言えない」という回答が多くを占めました。つまり、白・黄・赤は気づきやすく、グレー・青・紫・黒は気づきにくいということが分かりました。

 先の1/10のリアル空間で実施した実験(研究通信#4研究通信#8)と概ね同じ結果であり、今回のVR実験空間の見え方がリアル空間に近似していることも確認できました。

図7 服装色の違い × 横断歩道の有無別の気づきやすさ(5段階評価)(n=44)
3-2.気づきやすさの順位

 次に、歩行者の横断条件による気づきやすさの順位を調べるために、実験者が16種類の横断パターン(8色のスーツ × 横断歩道の有無)の中から、ランダムに選ばれた2種類(全112の組み合わせ)を提示し、実験協力者に「どちらの方が気づきやすいか」を回答してもらいました。

 16種類の横断パターンを気づきやすいほうに選択された回数の多い順番に並べてみました。すると、順位は同一の色が連続しており、気づきやすい順番は「黄・白・赤・緑・グレー・青・紫・黒」でした。横断歩道がある場合もない場合も、明度の高い服装色がドライバーから気づかれやすいことが分かりました。また、白以外の服装色は全て「横断歩道」を渡っている歩行者の方が、ドライバーから気づかれやすいことが分かりました(図8)。

 特に、「グレー・青・紫」で、その傾向が顕著でした。このことから、寒色系や暗い色の服装色の場合に、横断歩道の利用による視認性向上の効果が大きいと言えます。

図8 服装色と横断歩道の有無による気づきやすさの順位
3-3.高齢者と若年者の気づきやすさの違い

 次に、高齢者と若年者で気づきやすさに違いがあるのか調べるため、3-2の結果を高齢者と若年者に分けて比較してみました。

 横断歩道の有無による気づきやすさを比較すると、暖色系では、高齢者、若年者ともに、あまり差が見られませんでした。しかし、寒色系の「青・紫・黒」においては、高齢者ではあまり差が見られませんでしたが、若年者では違いがはっきりと表れました。結果の一部として暖色系から黄色、寒色系から青を抜粋し図9に示しました。
 このことから、寒色系や暗い色の服装色の場合に横断歩道を利用することは、若年ドライバーに対しては効果的ですが、高齢ドライバーに対しては効果が弱いと言えます。これは加齢に伴い、暗所で瞳孔があまり開かなくなり、光を取り込みづらくなる「老人性縮瞳」の症状が影響していることが考えられます。

図9 服装色と横断歩道の有無による気づきやすさの順位(年齢別)

4.まとめ

 夜間の環境で、歩行者の服装色と横断歩道の有無によるドライバーからの気づきやすさを調査した結果、「グレー・青・紫・黒」など、気づきにくい色の方が、横断歩道の有無による差が強く表れることが分かりました。つまり、寒色系や暗い色の服装を着ている歩行者ほど、横断歩道を渡ることでよりドライバーから見えやすくなり、安全に寄与すると言えます。

 その理由として、歩行者が暗い服装であったとしても、アスファルト上より横断歩道上のほうが足元のコントラストが高くなります。さらに歩くことで、白い部分が隠れたり現れたりと変化が生じ、歩行者そのものが見えにくくても、「人が歩いている」と認識できるのではないかと考えられます。人は明るさの変化や動きに敏感であるため、このような変化による気づきは、横断歩道上のほうが得られやすいと考えられます。

 なお、今回の実験では、横断歩道の有無に関わらず歩行者が出現する距離は一定で、常に右側の街灯の下から歩き始める設定でした。しかし、実際の道路では、歩行者が出現する距離も方向も一定ではなく、街灯が設置されていない場所から横断してくる可能性もあります。そのため、実際には、横断歩道以外を渡る歩行者は、今回の結果よりも更にドライバーから気づかれにくいと予測されるため、ドライバーも歩行者もより一層注意が必要です。

 最後に、皆さんの服装が実際の道路でドライバーからどのように見えているかを視覚的に理解していただきたいと思います。

 図10の写真は、日中と夜間に、明るい色と暗い色の服装で横断歩道を渡っている様子を撮影したものです。横断歩道無しの写真は横断歩道部分を画像処理で消し、時間帯と横断歩道の有無、服装色による歩行者の見え方の違いを比較できるようにしました。

 すると、日中は横断歩道の有無にかかわらず人が渡っていることがよく分かります。しかし夜間は、暗い服装で横断歩道が無い道路を渡っている場合は、人がいること自体に気づきにくいです。一方で、横断歩道を渡っている場合は、足元で白線が遮られることで、人が渡っていることに気づけます。
 このように写真で確認するだけでも、昼夜、横断歩道の有無、服装色によるドライバーからの見え方には違いが出ます。横断歩道の利用と服装色を意識する大切さを理解いただけると思います。

図10 実際の道路における横断歩行者の見え方(横断歩道 × 服装色 × 時間帯)

交通安全未来創造ラボから
皆さんへのメッセージ

歩行者の皆さんへ

視認性が落ちる夜間でも、横断歩道を利用すると
ドライバーから気づいてもらいやすくなります。
見える位置に横断歩道がある場合はもちろん、
交差点の先など少し離れた場所にある場合でも、
極力横断歩道を利用することが大切です。
特にドライバーから見えにくい暗い色の服を着ている時には、
より意識して横断歩道を渡るようにしましょう。

ドライバーの皆さんへ

夜間、暗い服装の歩行者が見えにくい、
気づくのが遅れたという経験のある方もいらっしゃると思います。
暗い環境では歩行者の上半身が見えにくいため、
足元の動きや道路上の変化にも注意してください。

特に高齢ドライバーの方は、歩行者の服装が暗い場合に
より気づきにくくなる傾向があることを知っておきましょう。


レポート制作:
角田 千枝 特別研究員(相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科 教授)
共同研究:
川守田 拓志 特別研究員(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 視覚機能療法学 教授)
内山 竜多(元・文化学園 服装学部 ファッションクリエイション学科 准教授)
近藤 恵(お茶の水女子大学 生活科学部 人間・環境科学科 教授)
今邨 来実(元・お茶の水女子大学 生活科学部 人間・環境科学科)
光学エンジニア
技術協力:

サイバネットシステム株式会社
サポート:
堀越 実 研究員、大村 佳子 研究員、大槻 裕茂 研究員、平松 真知子 研究員