研究通信

2022.04.18

研究通信#3

歩行者の服装色に関する調査

 今回の調査は、「歩行者の服装色」です。
 交通事故防止のために、歩行者はドライバーからいち早く発見されるように明るい色の服装で外出することが推奨されていますが、現状はどの程度目立つ(または目立たない)服装なのでしょうか?
 安全な服装を提案するための第一歩として、皆様の外出時の服装色について調査してみました。

1.交通事故と発見の遅れ

 昨今問題となっている高齢ドライバーによる交通事故の人的要因の8割以上が「発見の遅れ」であり、加齢に伴う認知・身体機能の低下が一要因と考えられています(図1)。この対策として、ドライバー自身が気を引き締めなければならないのは当然ですが、歩行者としても、高齢ドライバーを含め、車側から気付きやすい服やアイテムを着たり身に付けたりして外出するなどの自己防衛も考えてみたら如何でしょうか。

図1 人的要因別にみた高齢運転者交通事故発生状況(2020年度)
出典:警視庁「防ごう!高齢者の交通事故!」2021年3月24日

2.銀座の服装色の変遷

 では私達日本人は、どのような色の服装で外出してきたのでしょうか。
 1954~2016年に銀座の街頭にて女性の白服と黒服の着衣率の推移に関する調査がされています。白は昭和50・60年代の春夏には非常に多く見られましたが、平成に入ると出現率が大きく低下しています。黒は、DCブランド(デザイナーズ&キャラクターズの略とされる国内高級ファッションブランドの総称)のモノトーンブームであった1980年代半ば以降から秋冬に極めて多くなり、平成に入ると春夏も着られるようになり、黒は一年中いつでも着られる定番カラーとなりました。また、黒以外にもグレーが増え、その分有彩色が減少し、彩度の高い鮮やかな色は1970年に流行した以降は減少しました(図2)。では、この調査以降はどのように変化したのでしょうか。

図2 白服と黒服の着衣率の時代推移
出典:(一財)日本色彩研究所「<研究1部報>女性服装色の変遷と平成の傾向(銀座街頭)」

 2016年以降の傾向を明らかにするために、1982年と2020年の銀座の歩行者の写真を比較してみました(図3)。すると、1982年に35%であった黒い服を着ている人の割合が2020年には64%に増加していたことから、2016年以降も黒い服が好まれ続けていることが確認できました。
 これらの資料から、夜間に目立たない黒い服装が多い現在の方が18年前よりも歩行者の安全性が低下していることが確認できました。ですが、これらの資料は銀座に限定されていることから、別の視点でも比較検討できるアンケート調査を実施しました。

3.アンケート調査方法

 調査期間は2021年3月17日~4月1日。インターネット方式で20〜95歳の男女各1500名(合計3000名)へアンケート調査をしました。色は、明度と彩度で分類されたPCCSトーンという表色系をアレンジし、無彩色5色、有彩色を5グループ、その他の11個に分類しました(図4)。その中から、よく着ている服の色(2色以内)を回答してもらいました。また、歩行時や運転時にヒヤッとした経験についても調査しました。

図4 表色系

図5 回答者プロフィール(基本データ)
  • 年齢
  • 性別
  • 居住地域
  • 運転免許の保有
  • 職業(男性)
  • 職業(女性)

4.移動手段と居住地域

 移動手段は、通勤時は徒歩も車も約4割、プライベート時は徒歩も車も約6割でした。しかし、居住地域毎で比較すると、徒歩は大都市に、車は関東以外の小都市(以下、小都市)に多くなりました。特に通勤時の方がその傾向が強く、徒歩は大都市が6割に対し小都市は1割強、車は大都市が1割に対して小都市が8割であり、居住地域により移動手段が異なることが分かりました。(下のグラフの赤色部分)
 そこで、自分がどの居住地域なのかを踏まえ、歩行者目線またはドライバー目線で本研究結果を読んでみてください。

5.アンケート結果

5-1.上着・パンツ・靴・鞄は「黒」がNO.1!

 プライベート時によく着ている衣服と靴や鞄の色について調査したところ、殆どのアイテムの半数前後がモノトーンでした。そして、上着、パンツ、靴、鞄は黒が、シャツやブラウスなどのトップスは白が最も好まれている色でした。いずれのアイテムも、秋冬の方が黒の割合が多くなりました。特に黒と暗い色を合わせると、冬用のコートは45%、パンツは47%、靴は51%であり、冬の外出着の半数程度が見えにくい色でした。
 なお、交通安全の視点から是非着て欲しいのは明度や彩度の高い服ですが、(明度の高い白は多いものの)彩度の高い「鮮やかな色」は残念ながらどのアイテムも3%以下でした(図7)。


5-2.春夏でも上着を羽織ると危険度アップ?!

 一番よく着られている色の服装で夜間や薄暮時に外出した際の見え方について、通勤時とプライベート時に分け確認してみました(図8)。すると、春夏はシャツやブラウスに白が多く目立ちますが、プライベート時の春用コート以外は春夏でも最も多く着られているのは黒で目立ちにくい服装でした。また、秋冬はインナーであるシャツやブラウス以外は黒が一番多いため、着用シーンを問わず常に全身が目立ちにくい服装となりました。
 つまり、ドライバーは歩行者が上着を羽織るシーズンには、より注意して運転することが重要です。

5-3.男性は春夏も危険?!

 通勤時のコートについて男女で比較したところ、春用のコートは、黒をよく着ている男性が30%で女性が17%でした。それに対し冬用のコートは、男性が40%で女性が34%でした(図9)。このように、女性は春には明るめ冬は暗めと季節により着る服の色が変化する傾向がみられました。しかし、男性は春と冬どちらも黒の割合が多いため季節を問わず目立ちにくい格好でした。なお、他のアイテムでも概ね同様の傾向がみられました。

5-4.ヒヤリハットと高齢者ドライバー

 歩行中と車を運転中(または同乗中)に、事故に遭いそうでヒヤッとした経験または実際に事故に遭った回数を調査しました。すると、3回以上だったのは、運転中が15.1%に対し、歩行中は27.7%と約2倍でした。もし、運転者と歩行者が共に危険な状態であったと認識していれば、同数程度となるはずです。つまりこの調査結果から、歩行者がヒヤッとした瞬間に、約1割のドライバーが気付かず運転し続けている可能性があると推察されます。
 また、運転中や同乗中、歩行中のいずれも、高齢者になるほどヒヤッとした経験回数が少ないとの回答でした。高齢者の移動は自宅周辺が多くなり、車の運転も安全に配慮した補償運転を行う傾向にあることはよく知られています。しかしながら別の側面から見てみると、高齢者は、一般的に視覚・運動・身体機能は若年者より衰えていると考えられますが、運転に自信を持っている割合が多いという調査結果もいくつか見受けられます。もしかすると、この高齢ドライバーの自信は、そもそも暗い服装の歩行者の存在に気付かず「危険な状態でもヒヤッとしていない」ケースがあることが要因の一つかもしれません。

6.まとめと今後の展開

 先行研究や、街で行きかう人々の観察などにより黒い服装が多いことは予測していましたが、今回の調査により、実際に多くのアイテムで黒い衣服が好まれていること、アイテムや性別、季節などの諸条件によって傾向が異なること、などが明らかとなりました。また、服装色の割合が明確となったことで、冬は半数程度の歩行者が見えにくい衣服であるなど、現状の外出着の危険性が定量的に明らかになり、視認性の高い衣服提案が現在必要であることを再認識することができました。
 そこで本ラボでは、皆様の所有する外出着の現状に合った服装提案を目指して、モノトーンの外出着による視認性についての基礎実験や視線解析(アイトラッキング)による実証実験を進めています。同じ服装でも背景色との組み合わせで見え方が異なるなど面白い結果が出てきていますので、今後の発表も楽しみにしていてください。

図11 視線解析による実証実験

交通安全未来創造ラボから
ドライバーの皆さんへのメッセージ

歩行者の皆さんへ

現在の皆さんの外出着は視認性の低い黒が多く、
特に割合の多い「秋冬の方が危険」です。黒いアイテムが多い日には、
「白い靴や鞄」を合わせたスタイリッシュで安全な
モノトーンコーディネイトがお勧めです!
男性は春夏でも黒い服が多いため、
意識的に明るい色を着るように努めましょう!

ドライバーの皆さんへ

歩行者が危険を感じた瞬間でも、
あなたは「歩行者に気付かず運転し続けている」可能性があります!
特に、秋冬は暗い服装で外出している歩行者が
半数前後となるため、非常に危険な状態です。
薄暮時や夜間には、今まで以上に歩行者に注意を払い運転しましょう。

レポート制作:
角田千枝特別研究員(相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科 教授)
サポート:
渡邉翔 (新潟大学 工学部 工学科 )、堀越実研究員、大村佳子研究員、大槻裕茂研究員、平松真知子研究員
アドバイザー:
村山敏夫特別研究員(新潟大学 人文社会科学系 教育学系列 准教授)