研究通信
2022.02.21
研究通信#2の3号
社会デザイン研究
高齢ドライバー運転行動意識調査
「危険源発見スキル・運転操作スキル(知識)編」
1.研究の目的
高齢ドライバーの交通事故要因解明の一方策として、全国20歳以上のクルマ運転者1,800人を対象に運転行動意識に関するWEBアンケート調査を行い、その意識に高齢者特有の傾向がないかを考察しました。
ドライバーの運転行動は、遵法マインドや他者調和性、危険源発見スキル、運転操作スキルなど色々な認知的・心理的因子により決定されると言われています。アンケートの質問項目は、これら因子に関連付けて抽出しました。
この調査の分析結果を、4回に分けて報告しています。今回はその3回目になります。危険源発見スキル・運転操作スキルに関連し、知っているだけで交通事故リスクを下げられる可能性のあるアイテムについてまとめました。
2.回答者プロフィール(基本データ)
回答者の人数 年代層別の内訳(単位:人)
20〜40代 | 50代 | 60代 | 70代 | 80代 | 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
都心エリア | 200 | 200 | 200 | 200 | 100 | 900 |
地方エリア | 200 | 200 | 200 | 200 | 100 | 900 |
※都心エリアは 東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,京都府,大阪府,兵庫県 地方エリアはそれ以外
調査時期:2021年9月
3.分析結果
- 目次
- 3-1.まず手始めに。。。その道路標識、見えていますか?
- 3-2.次に、理解できない標識に出会うことはありますか?
- 3-3.では実際。。。この道路標識、分かりますか? その1
- 3-4.この道路標識、分かりますか? その2
- 3-5.この道路標識、分かりますか? その3
- 3-6.この道路標識、分かりますか? その4
- 3-7.この道路標識、分かりますか? その5
- 道路標識の正答率を平均すると。。。
- 3-8.ほぼ全滅でした。。。事故の多い速度は?
- 分析まとめ
3-1.まず手始めに。。。その道路標識、見えていますか?
車を運転時、道路標識が見えにくくて困ることが、「頻繁に」「時々」ある人は、3割半ばです。
全体では、年齢が上がると、70代を底に減少していきますが、80代でまた増加しています。女性は、高齢になるほど、増えていきます。
男性より女性、地方エリアより都心エリアに、見えにくくて困る人が多いようです。都心エリアの方が道路が複雑で周辺構造物が多いからかもしれません。
3-2.次に、理解できない標識に出会うことはありますか?
理解に時間が掛かる、或いは理解できないような標識を見たことが、「頻繁に」「時々」ある人は12% で多くはないようです。理解できていないが、理解しているつもり、ということも考えられますので、注意して運転しましょう。
年齢が上がると、このような経験のある人が減る傾向にあります。高齢になると、自宅周辺道路を走行することが増え、道路標識も馴染みになっているのかもしれません。
3-3.では実際。。。この道路標識、分かりますか? その1
まずは比較的出会う機会の少ない標識を聞いてみました。正解は、「B道路に面した右側の施設等への横断禁止(道路の右折は可能)」です。正答率は、16.9%と非常に低い結果となりました。回答の多い順に、C(32.2%)→@(28.2%)→A(22.7%)→B(正解)、の順でした。男性より女性の方が低くなっています。
50代の正答率が一番高く、それより高齢になると正答率が下がっていく傾向にあります。
3-4.この道路標識、分かりますか? その2
次は、間違えやすい道路標識です。正解は、「@追い越しのための右側部分はみ出し通行禁止(車線をまたがなければ追い越しして良い)」です。正答率は、19.7%と非常に低い結果となりました。回答の多い順に、A(75.6%)→@(正解)→C→B、の順でした。男性より女性の方が低くなっています。
50代、60代の正答率が高い結果となりましたが、加齢に比例するような傾向は見られませんでした。
3-5.この道路標識、分かりますか? その3
これは街中によく見かける道路標識です。正解は、「A車両進入禁止」です。正答率は、88.8%と高い結果となりました。回答の多い順に、A(正解)→@(8.4%)→C→B、の順でした。
男性80代、女性20〜40代が若干低くなっています。年齢によるはっきりした傾向は見られませんでした。
3-6.この道路標識、分かりますか? その4
これも街中によく見かける道路標識です。正解は、「A横断歩道」です。正答率は、61.3%と想定していたより低い数字になりました。回答の多い順に、
@(正解)→B(27.2%)→A→C、の順でした。男性より女性の方が低くなっています。
50代の正答率が一番高く、それより高齢になると正答率が顕著に下がっていきます。
3-7.この道路標識、分かりますか? その5
これもお馴染みの道路標識です。正解は、「A最高速度50km/hの始まり」です。正答率は、83.7%と高い結果となりました。回答の多い順に、A(正解)→@(8.7%)→C→B、の順でした。やはり男性より女性の方が低くなっています。
ここでも50代の正答率が一番高く、それより高齢になると正答率が下がっていきます。
道路標識の正答率を平均すると。。。
5つの平均正答率は、54.1%でした。
正答率を全体として見ると、50代の正答率が一番高く、それより高齢になると正答率が下がっていきます。また男性より女性のほうが低くなっていますが、これは運転頻度が影響している可能性があります。
3-8.ほぼ全滅でした。。。事故の多い速度は?
交通事故はどの速度で多く起きているでしょうか? 答えは、20km/h以下です。この質問の正答率は3%でした。交通事故は〜40km/h、 〜60km/hなど、高速で起きていると思われているようですが、 実は低速での事故が多いのです。80km/h超と答えた人も、2割以上います 。
男性20~40代の正答率が最も高いものの、8%にとどまっています。
危険認知速度と運転者年齢の関係
低速事故が非常に多く、20km/h以下が全体の64.5%となっています。
年齢が上がると、低速事故の比率は更に高くなっていきます。
分析まとめ
理解できない道路標識に出会うことが「あまりない」「全くない」人は、87%でした。ところが今回の道路標識の質問の平均正答率は54.1%と決して高いとはいえない結果になりました。「理解しているつもり」になっている人が多いことが推察できます。
高齢になると、よりこの乖離が大きくなります。70代、80代では、理解できない道路標識に出会うことが「あまりない」「全くない」は、91%ですが、平均正答率を見ると、70代の平均は51.1%、80代の平均は49.9%でした。
また、交通事故は低速で起きていると認識している人は、殆どいません
でした。
交通安全未来創造ラボから
ドライバーの皆さんへのメッセージ
交通事故のリスクを下げるため、道路標識を再学習しましょう。
特にご高齢のドライバーは運転免許証更新時に配られる
「交通教本」を見直すことをお勧めします!
交通事故の多くは低速で起きます。今この場で覚えましょう!
交差点や市街地の混雑した道路、生活道路などでは周囲の確認を怠らず、
気を引き締めて運転しましょう。
高齢者運転行動をテーマとする次回研究通信は、
運転マナーについての考察です。お楽しみに!
- レポート制作:
- 堀越実研究員、大村佳子研究員、大槻裕茂研究員(サポート:奥田寛規研究員)
- アドバイザー:
- 長谷川哲男ラボ リーダー兼 研究員、ラボ研究員各位
※本稿は交通安全未来創造ラボの独自調査によるものですが、一部(公財)交通事故総合分析センター(ITARDA)などのデータ・公表資料も参考にさせて頂きました。この場をお借りして感謝申し上げます。