2023.7.11

2年目の進化:将来の社会・
生活者の価値観に関する洞察

ビジョン駆動型ストーリーラインワークショップ

2年目の進化:将来の社会・生活者の価値観に関する洞察

Illustration by 竹添星児

ビジョン駆動型ストーリーラインとは、ビジョンを描き、そこに到達する道筋の仮説を記述したものです。これからの社会において、人々の考え方や行動についての「あるかもしれない」変化と、それを引き起こす環境要因について示していくバックキャスティングの思考法です。

2年目の今年は、ビジョン駆動型ストーリーラインを実践している株式会社 日立製作所 研究開発グループのみなさんをディスカッションパートナーとして、日産自動車株式会社 総合研究所のメンバーが主体となって、将来の社会・生活者の価値観の洞察にチャレンジしました。

こちらで紹介する3つのストーリーはワークショップを通して、主観的な意見を交わすことによって出来上がったもので、確かな未来を示すものではありません。客観的なアプローチでは得られない視点を獲得し、不確実な未来への視野を広げたいという思いでまとめたものです。

将来の社会・生活者の価値観に関する洞察
忘れることができるから、
今安心してチャレンジし続けられる

デジタルデータがアップデートする
人生観

超長期のデータ管理を前提に、定期的にデータの棚卸を行うことで、世代を通じてデジタルライフを充実させる

少し先 人々のデジタル空間での滞在時間の増加とともに、個人に属するデジタルデータが加速度的に蓄積されていく。個々人を表したキャラクターとそれを通じて得た経験・資産は、個人のアイデンティティと不可分なものとなっていく。また、経済活動の活発化と法的責任の所在の明確化などを背景に、フィジカルな個人識別情報とデジタルな個人識別情報・資産が、真正性を持って統合管理されるようになる。これらのデータを用いて亡くなった人を再現する試みは、デジタルな不死の概念を身近にする。
人々は人生の終わりのための活動に関心はあるものの、動き出せない、あるいは動き出しても法律や行政手続きが複雑だったりして思うような計画ができないなど、活動は捗らない。準備されていない死を、特に単身で迎えた住民については、フィジカルな身体・財産の処分に加え、悪用やトラブル回避のためのデジタルデータの処分など全てを行政が担うこととなり、今後も単身世帯が増加していくなか、行政の負担は増すばかりである。

その先 生前と死後のフィジカルな身体・デジタルデータの処し方について、定期的な棚卸と意思表示が求められるようになり、ハードルだった法律や行政手続きが見直される。感覚や感情を含む経験共有技術を用いたデジタル遺言も可能となる。また、伝統的な家族に限らず、フィジカル及びデジタルで共生した仲間も関わりやすくなるなど選択肢が増えるため、単身者も人生の終わりを繋ぎ託せるようになる。関連する民間サービスも拡大し、普及する。デジタルのメモリアル空間の作成、希望する葬送の実現の他、パスワードの信託、データの保管・秘密保持技術を用いた暗号化や消去支援などだ。仲間によるデジタル空間での弔いが一般化すると、フィジカルで血縁者が長い期間営む葬送の儀式が簡素化されていく。アイデンティティの一部であったデジタルデータは、デジタル空間での弔いののち段階的に削除され、多くの人々のデジタルデータはフィジカルな死後33年を待たずに削除されている。
フィジカルでもデジタルでも生死は自らが積極的にデザインすることを人々が受け入れ、憂いのない豊かな旅立ちへの準備ができるようになり、結果として、今を生きる人々のデジタルライフに安心と充実をもたらすようになる。

デジタルデータがアップデートする人生観

Illustration by 竹添星児

Keywords:

  • 感覚と感情の共有
  • 終活
  • 単身世帯の増加
  • デジタル資産
  • プライバシーの権利
  • メタバース

ウェイティングリストがある
街にするのは
住民であるわたしたち

プロ化する市民と自治体の関係

行政も人々も、研鑽と発信を積み重ね、
私だけの街・誇れる市民との相思相愛を目指す

少し先 人口減少やエネルギー価格の高騰によって自治体では公共インフラの維持が難しくなり利用料(光熱費)への価格転嫁を余儀なくされ、インフラの選別や人口維持のための人集めが加速する。その計画・実行は自治体や企業が主体となって行われている。一方で人々はリモート環境の革新を背景に、居住地を自由に選択できるようになる。大手の移住マッチングサービスプラットフォームの出現や、SNSでの情報共有がそれを後押しする。
働き方や家族関係で節目を迎える50代が、移住文化をけん引していくが、年金受給開始年齢引き上げにより彼らは移住先でも働き続け、コミュニティに参加し、人生の充足感を得ようとする。その姿を見る若い世代は、ライフステージごとに仕事や暮らし方を変えることを意識するようになる。

その先 財政逼迫でデフォルトする自治体が多発するなかで、財政状況に関する危機感を早めに行政と住民が共有できた自治体では、まちのコンパクト化や行政上の強制執行による改革を進める。改革が成功した自治体は長所を伸ばしていく余裕ができ、住みやすさ・文化・風土・地域貢献の充実度、コミュニティ参加機会の多さやスタートアップの誘致などで移住者を惹きつけようとする。その自治体の長所を伸ばせるスキルを持つ移住者は優遇され、優遇された移住者は積極的にまちづくりを牽引していく。そうした相思相愛関係が回り始めて、多くの人々を惹きつけられるようになったまちは、ウェイティングリストを持つほどになる。
一方で改革が失敗あるいは進められず、人々を惹きつけるに至らなかった自治体では「町仕舞い」「村仕舞い」が進み、自治体間の格差は広がっている。
人々は自分の好みにあった居住地自治体のニーズに合わせてスキルを会得/研鑽することで、節目ごとにフェーズアップする人生を楽しんでいる。

プロ化する市民と自治体の関係

Illustration by 竹添星児

Keywords:

  • 移住
  • 消滅可能性都市
  • 年金受給開始年齢
  • 行政サービス維持
  • マッチングサービス
  • リスキリング

いつの間にかウチ、
カーボンニュートラルになってるよ!

環境リテラシーの進化

個々人の志向・状況に応じた道筋を選び、
サービスと技術を頼りにカーボンニュートラルを目指す

少し先 脱炭素は個人ではいかんともしがたく、国や大企業が頑張るものと人々は考えていたが、算定基準がスコープ3に拡大されると、個人にも頑張りが要求されることになった。企業ではこれを契機に、従業員の環境意識の向上・行動変容を促すアプリを導入するが、面倒な上に効果に関する科学的エビデンスが弱いため従業員から反発され、活用が進まない。これを直接の原因とする従業員の流出に腰が引け、従業員一人一人への脱炭素圧力を弱める企業が続出する。そんな中、日本の盟主を自負する大企業が、自身の城下町で実験を敢行、町民1人1人の行動変容の影響を高精度で計測し、脱炭素に効果のあるアクションを特定した。この取り組みがオープンソース化されると、意識の高い自治体や城下町を持つ他の大企業が次々地場で実験し始め、エビデンスが積みあがっていく。とはいえ、環境意識の向上・行動変容を促すアプリが科学的エビデンスを備えたところで、それだけでは、ヒトは一朝一夕に変わることはできない。

その先 ヒトは一朝一夕には変われないが千朝千夕になら変われるのではないか、という仮説を持つスタートアップが、新しいアプリを開発する。エビデンスが検証されている脱炭素メニューリストから「脱炭素に貢献したいから、やってみたいけど、出来る気がしないので、アシストが必要」なものを1つだけ選んで実践することから始める。アプリは最大10年の計でロードマップを計算し、1日に1つずつのアドバイスを送る。「昆虫食」であれば昆虫粉末入りスナックの購入ステップが入る一方、レストランのファンサイトを覗くことが含まれる。また「暖房不使用」であればフリース靴下の購入ステップが入る一方で、サウナのドキュメンタリー映画を見るなど、一見無関係に見えるステップが含まれているが、全て伏線設定されており、ロードマップが進んでいくと、回収されていく。達成した事柄によって異なるバッジがもらえ、それに応じて「環境税」が控除されるようになり、利用者が増えていく。個人の脱炭素を加速させる技術開発が進み、中でも家庭用DACマシンは、それを購入するだけでバッジが1つもらえることもあって、大人気となる。地球規模の社会課題に、個人が立ち向かえる技術とサービスにより、人々は労せず、しかし確信をもってカーボンニュートラルを達成している。

環境リテラシーの進化

Illustration by 竹添星児

Keywords:

  • 意思決定
  • エビデンスベイスト
  • カーボンニュートラル
  • 行動変容
  • 深層強化学習
  • スコープ3
  • Direct Air Capture