研究通信

2024.05.20

研究通信#8

昼間に目立っていた服装が
夜には見えにくくなる?
色の見えやすさを学んで
安全に配慮した服装を目指そう!
〜歩行者の服装色に関する
フィギアによる視認性評価実験2nd stage〜

1.はじめに

 皆さん、お持ちの服で多いのはどんな色ですか?
 スタイリッシュなモノトーン、落ち着いた雰囲気のカーキ、あるいは、優しい印象のピンクや水色など、好みにより様々だと思います。では、あなたのその服、ドライバーからどの程度見えやすいか(または見えにくいか)考えた事はありますか?
 先の調査で歩行者の服装色に関する視認性の評価実験を実施し、モノトーン(無彩色)の見えやすさを明らかにしました(研究通信#4)。そこで今回は第2弾として、「色味・明るさ・鮮やかさ」の異なる様々な色(有彩色)について調査しました。多くの色を調査した理由は、皆さんが自分が持っている服に置き換えて考えやすくするためです。

2.服装色の評価対象

 調査カラーは、基準とするモノトーン(無彩色)5色と、明度と彩度の異なる「赤、黄、緑、青、紫」の有彩色20色の計25色です。
 生地にそれぞれの色をプリントし、1/10サイズのオリジナルフィギア用の実験用コートを制作しました(図1)。

図1 比較評価フィギア(25色)

3.実験方法

 実験協力者は視力が0.7以上の19〜23歳の若年者(女性40名)、62〜80歳の高齢者(男性18名、女性12名)、実験場所は大学の屋内です。
  先のモノトーンの調査と同様に、室内に歩行者と周辺の風景を1/10に縮尺した環境を再現しました。道路を横断中であることを想定し、足元と背景にはアスファルトを使用しました。また、照明を調節することで「日中、夕方、夜間」の3つの時間帯での評価実験を行いました。なお、今回は日中と夜間の実験結果を紹介します。
 実験協力者には運転中を想像して、モノトーンのコートを着せた5体のフィギアを見て、目立つかどうかを5段階評価で答えてもらいました(手順1) 。次に、それらに順位を付けてもらい、左から目立つ順に並べました(手順2) 。そして、有彩色一色ごとに、並べたモノトーンと比較して、目立つかどうかを11段階で答えてもらいました(手順3)<主観評価>(図2)。
 また、コートと道路の輝度を輝度計測解析システム(ACE3 Color Series)を用い計測をしました<輝度コントラスト評価> 。

図2 実験手順

図3 実験風景

4.実験結果

4-1.モノトーンの見え方<主観評価>

 まずはモノトーン5 色についての目立ちやすさの結果を説明します。8割以上の人が「非常に目立つ」「やや目立つ」と回答した色を「見えやすい色」、「非常に目立たない」「やや目立たない」と回答した色を「見えにくい色」としました。
 その結果、日中に「見えやすい色」は若年者と高齢者共に白とライトグレーでした。「見えにくい色」は若年者はダークグレーとなりましたが、高齢者は「見えにくい色」はありませんでした。
 夜間に「見えやすい色」は若年者と高齢者共に白のみでライトグレーは「見えやすい色」となりませんでした。「見えにくい色」は若年者と高齢者共にダークグレーと黒でした。ダークグレーは黒よりも「見えにくい色」となりました。
 また、夜間の白は若年者よりも高齢者のほうが見えやすいと答えた割合が高くなりました(図4) 。

図4 若年者と高齢者のモノトーンの見え方の比較
(日中と夜間)
4-2.日中と夜間における目立つ色の順位<主観評価>

 では、有彩色はどのように見えるのでしょうか。
 評価結果を基に、目立つ色順にコートを並べました。なお、モノトーンの見えやすい色(または見えにくい色)と同程度の見え方であった色をグルーピングすることで、25色全ての見えやすい色と見えにくい色を導き出しました。
 若年者と高齢者は共通して、夜間は日中より見えやすい色が減り、見えにくい色が増えました。また夜間において、見えにくいと感じる色の数を若年者と高齢者で比較すると、若年者は5色だったのに対し高齢者は10色と倍になっています。
 つまり、夜間は高齢ドライバーの方が歩行者がいることに気づきにくいと考えられます(図5)。

図5 見えやすい色と見えにくい色の数
4-3.色の系統による見え方の違い<主観評価>

 次に、色を系統毎(赤・黄・緑・青・紫・モノトーン)に分類し、高齢者にとっての見えやすさ(or目立ちやすさ)を比較してみました(図6)。
 すると、高齢者にとって夜間に目立つ色の順位は赤、黄、緑、青、紫でした。また、系統毎の4色(高彩度、高明度、中明度、低明度)の順位を確認すると、赤系の色は中間の順位から上位の間、青や紫系の色は中間あたりの順位から下位の間となりました。つまり、同程度の彩度や明度でも色の系統により目立ちやすさに差があり、寒色よりも暖色の方が目立ちやすいことが分かりました。
 また、この傾向は日中や若年者も同様でした。
 なお、黄色の順位については高明度、高彩度、中明度のものは上位にきているのですが、低明度だけが下位になりました。低明度の黄色が目立たなかったのは、色の特徴によるものか、鮮やかさ(彩度)がやや低めであったことによるものか判断しかねるので、今後の検討課題とします。黄色は目立つ色として良く知られていますが、黄色系統の色だからといって一概に視認性が高いとは言えないことが分かりました。

図6 色の系統による見え方の違い
4-4.日中と夜間における鮮やかな色の見え方の違い<主観評価>

  次に、色の系統毎に高彩度・高明度・中明度・低明度を目立つ順に並べることで、鮮やかな高彩度の見え方がどのように変化するのかを確認しました。
 日中には高彩度が一番目立つという色が多いのですが、夜間になると(若年者の赤を除き)高明度の方が目立ちました。つまり、昼間は色味の強い鮮やかな色の服が、夜間は白っぽい明るい色の服がドライバーから見えやすいことが分かりました。また、高彩度の若年者の紫と、高齢者の青と紫は、中明度よりも目立たないことが分かりました(図7) 。

図7 若年者と高齢者の日中・夜間の高彩度の見え方の違い
4-5.青と紫の年齢による見え方の違い<主観評価>

 夜間に高彩度の青や紫が中明度よりも見えにくくなったことについて、もう少しみていきます。この2色の順位が日中と夜間、若年者と高齢者でどのように変化するのか調べました。
 すると、若年者は青が3位分、紫は1位分目立つ色の順位が下がりました。それに対し高齢者は青が11位分、紫が9位分と大幅に順位が下がりました(図8)。つまり、歩行者の服装が鮮やかな青や紫だったとしても、夜間においては高齢ドライバーから気付かれにくいことが分かりました。
 この理由は、高齢になるほど水晶体が褐色化(黄色化)するため、波長の短い発色の良い青色の光が通り抜けにくくなるためだと推察されます。

図8 青と紫の年齢による見え方の違い
4-6.コートと背景色のコントラスト<輝度コントラスト評価>

 では、このように色により見え方に差があるのは何故でしょうか。
 先のモノトーンの研究により、服装と道路の色(輝度)が近い程見えにくいという結果が得られています。そこで今回は、有彩色についても調査してみました。
 夜間のコートと背景のそれぞれの明るさ(輝度)を計測し、コートと背景の明るさにどれだけ差があるのか割合を導き出しました。すると高彩度は、主観評価で目立ちやすかった暖色(赤・黄)は背景との差が大きく、目立ちにくかった寒色(青・紫)は差が小さくなりました(図9) 。つまり夜間は、有彩色も服装と道路の色(輝度)が近いほどドライバーに気付かれにくい傾向にあるため、青や紫などの服装の際には注意が必要です。
 また、日中や夕方についても調べたところ、日中はこの服装と道路の色(輝度)の差で目立ちやすいとはいえませんでした。これは、主観評価の結果(4-4)のように、明るい環境になるほど色味による影響が強くなるため、服の明るさ(輝度)で目立ちやすさを測れないためでしょう。

図9 コートと背景の輝度コントラスト(夜間)
4-7.「見えやすい色」と「見えにくい色」のまとめ<主観評価>

 今回の研究結果を基に、夜間の「見えやすい色」と「見えにくい色」を一覧にまとめました(図10)。
 年代を問わず共通している「見えやすい色」は、白と、明度が高く明るい又は彩度が高く鮮やかな暖色(赤・黄)でした。また、高齢者は(若年者と違い)緑が見えやすい色に入っていませんでした。
 年代を問わず共通している「見えにくい色」は、黒とダークグレー、及び明度が低く暗い寒色(青・紫)で、黄色も明度が低く暗いと見えにくくなりました。また、高齢者は若年者よりも青や紫などの寒色が見えにくく、鮮やかな色や、暗くない明るさの色(中明度)でも見えにくくなりました。
 つまり、夜間に「見えやすい色」は明るいまたは鮮やかな暖色で、「見えにくい色」は暗い、寒色と黄色でした。また、高齢ドライバーの方は視力の低下により見えにくい色の範囲が広いことが分かりました。


図10 若年者と高齢者の見えやすい色と見えにくい色
(夜間)

5.より安全なファッションの提案

5-1.おしゃれに「目立つ」ファッションへ!

 ここまで、色についての見え方を細かく見てきましたが、皆さんのお持ちのコートは、目立つ色?それとも目立たない色でしたか?
 図11にある一覧と自分のコートの色を見比べて、今の自分がドライバーからどのように見えているのか確認してみてください。
 なお、日中よりも夜間、そして若年者よりも高齢者の方が見えにくい色が多いことが分かりました。そこで、今回は「夜間の高齢者の見え方」を、皆さんに知っていただきたい色として採用しました。

 白、桜色、鮮やかな紅色、レモンイエローなどのコートは、年齢を問わずどのドライバーにも見えやすい、また夜でも見えやすく安全に配慮されたコートです。この色のコートだった方には、積極的に着ていただくことをお勧めします。
 黒、ダークグレー、深緑、からし色などのダークカラーは、見えにくい色です。これらの色は先のアンケート調査により、多くの皆さんが秋冬に好んで着ている色でした(研究通信#3) 。また真っ青なブルーデニムなども高齢ドライバーからは見えにくい色です。これらの色のコートだった方は、ドライバーから気付かれにくいので十分に注意してください。

図11 見えやすいコートの色の順位(夜間:高齢者)
5-2.暗い色のコートでも「見えやすい!」に変わるファッション

 ですが、見えにくいからといって、今持っているコートから、見えやすい色のコートに買い替えるのは難しいですよね。
 そこで本ラボでは、あなたが愛用している見えにくい色のコートでもドライバーから気付かれやすくなるように、見えやすい色をプラスして、「見えにくい」から「見えやすい!」に変わる、安全に配慮したファッションを提案します(図12)。

図12 「見えやすい!」に変わるファッション
5-3.日常生活で取り入れやすいファッション提案

 見えやすい色をプラスする際に、以下の2つを心がけると、より安全性がUPします。

【POINT1】見えやすい色の面積をなるべく大きくする
【POINT2】360°どの方向からでも見えるようにする

 もし、あなたの日常生活で取り入れやすい内容があったら、是非参考にしてください!
【提案1:見えやすいアイテムをプラス!】
 バッグ、靴、傘、マフラー、マスク、帽子、ヘッドアクサセリーなど、取り入れ易いアイテムは沢山あります。バッグは、ショルダーストラップだけでも見えやすい色に変えると効果的です。
【提案2:合わせる服で見えやすさUP!】
 パンツやスカート、襟やフードなど、コートの中に着ている服を見えやすい色にしてコートの裾や襟元から見せるのもお薦めです。
【提案3:見えやすい色が入った柄を選んで!】
 チェックやストライプ、花柄などの柄付きの服なら、見えやすい色の面積が多い柄を選ぶのも効果的ですね。

図13 ファッション提案
5-4.衣装提案と今後の活動予定

 本ラボでは、この研究結果を一人でも多くの方に知っていただき、実際に日常生活で活用していただけるようになることが、ドライバーと歩行者など、道路を利用する全ての方の幸せに繋がるとのではと思っております。そこで、「見えにくい服」から「見えやすい服」に瞬時に変わる衣装を製作しファッションショーを開催しました。今回は女性についての衣装提案でした。多くの方にご覧いただき大盛況でした。
 現在はVRなども取り入れて研究や啓発を進めています。今後にご期待ください。

図14 制作衣装とファッションショー

交通安全未来創造ラボから
皆さんへのメッセージ

歩行者の皆さんへ

明るい場所で目立つと思っていた服の色が、夜間の路上では目立たなくなる場合があるので
注意が必要です。
また、寒色より暖色がお勧めです。
青や紫は鮮やかでも
高齢ドライバーから気付かれにくい
ので、
夜間外出時は注意してください。
自分の服装はこの実験色のどれにあたるのか照らし合わせながら、
おしゃれを楽しんで下さい。

ドライバーの皆さんへ

黒系統の服装は季節を問わず好まれています。ですが、
特に秋冬には、ドライバーの皆さんにとって見えにくい黒やダークカラーのコートで
外出している歩行者が多くなりますので十分に注意して運転してください。

また、年齢を重ねると徐々に視覚機能が衰えてきますが、その衰えはゆっくりやってくるので
自覚しにくいものです。
つまり、変わらず運転しているつもりでも、
実は以前よりも歩行者に
気付きにくくなっている
のです!
だからこそ
「昨日よりも注意して運転しよう!」と
日々、気を引き締めて運転
してください。


レポート制作:
角田 千枝特別研究員(相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科 教授)
共同研究:
川守田 拓志特別研究員(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 視覚機能療法学 准教授)
近藤 恵(お茶の水女子大学 生活科学部 人間・環境科学科 教授)
尾形 麻衣(お茶の水女子大学 生活科学部 人間・環境科学科)
衣装デザイン・制作:
重野 桃子、藤井 詩織、熊川 晴香、名嘉 美咲、笹木 月渚、加瀬 桃子(相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科)
サポート:
堀越 実研究員、大村 佳子研究員、大槻 裕茂研究員、平松 真知子研究員