研究通信

2023.03.08

研究通信#4

最も目立たないのは「黒」じゃない?!
〜歩行者の服装色に関するフィギアと実車による視認性評価実験〜

1.研究の目的

  皆さんは、服装の色にどれほど関心を寄せていますか。本ラボの先のアンケート調査により、外出時にはどのアイテムもモノトーン(白、グレー、黒)がよく着られていることが明らかになりました。
 そこで今回は「安全でおしゃれなモノトーンファッション」を皆さんに提案するために、モノトーンの各色がどの程度見えやすいのか(または見えにくいのか)について実験しました。
 なおこれらの実験は、本ラボの特別研究員3名がそれぞれの専門分野を活かした共同研究です(図1)。実験は2種類で、実際の環境を想定した屋外での視線解析による「実車実験」 と、 屋内1/10縮尺環境における主観評価と輝度計測による「フィギア実験」です。同じ目的の実験を行うことで、それぞれの長所を活かし短所を補うことと、実験結果の信頼度が高められるのではという本ラボならではの新しい試みでもあります。

図1 3大学共同研究関連図

2.服装色とアイテム

 「白は目立ち、黒は目立たない」ことは一般的ですが、その間にある「グレー」はどうなのでしょうか。
 そこで今回はグレーを3色に分け、「白」「ライトグレー」「グレー」「ダークグレー」「黒」の5色の違いについて比較してみました(図2) 。

図2 比較評価color(5色)

 歩行者事故は秋冬時に多発するため、この時期にアウターとして着られているコートを実験用アイテムとしました。実車実験は日本人(20~39歳)の平均身長である172pの男性が着用し、フィギア実験は日本人の平均的な体型を1/10サイズで再現したオリジナルフィギアを使用しました。また、いずれの実験もコートの素材とデザインは共通です(図3)。

図3 実験用コート

3.実験方法と結果

3-1.【実車実験】実験方法

 実験協力者は視力が0.7以上の22〜23歳の若年者10 名(男性8名、女性2名)、実験場所は教習所の車両教習コースで、冬の夜間に実験しました。
 実験方法は、車両教習コースを8の字に30q/h前後で走行し、ドライバーが歩行者に気付くまでの時間と距離をサングラスの形状をしたアイマークトラッカーを用いて計測しました。歩行者は、横断直前を想定し道路に面した歩道に横向きで立った状態です。立ち位置はドライバーから直線で70mを確保したコース内の3個所で、着用するコート5色はランダムとしました(図4)。

図4 実験方法(実車実験)
3-2.【実車実験】ドライバーが歩行者に気付くまでの時間と距離

 ドライバーが歩行者に気付くまでの時間は、白が最も速く、ダークグレーが最も時間がかかりました。なお、黒よりもダークグレーとグレーの方が時間がかかりました。また、ドライバーが歩行者に気が付いた位置と歩行者までの距離を計測したところ、白が最も長く、ダークグレーが最も短くなりました。
 このように時間と距離の実験結果から、白が最も見えやすいこと、黒よりもダークグレーの方が見えにくいことが明らかとなりました(図5)。

図5 視認時間と視認距離の差
3-3.【フィギア実験】実験方法

 実験協力者は視力が0.7以上の19〜32歳の若年者(女性12名)と68〜82歳の高齢者(男性13名、女性7名)、実験場所は大学の屋内です。
 実験のために、室内に歩行者と周辺の風景を1/10に縮尺した環境を再現しました(図6)。

図6 実験方法(フィギア実験)

 背景は「道路」(アスファルトで制作)と「街中」(ディスプレイに表示したCG画像)の2種類とし、それぞれライトの照度を調整して「日中、夕方、夜間」の3つの時間帯でフィギアの見えやすさを評価する実験を行いました(図7)。
 実験協力者には運転中を想像してもらい、4.8m先にあるモノトーンのコートを着せた5体のフィギアを見て、コートの色毎に目立つか(または目立たないか)を5段階で答えてもらいました(主観評価)。また、コートと道路の輝度を輝度計測解析システム(ACE3 Color Series)を用い計測をしました(輝度コントラスト評価)。

図7 背景(フィギア実験)
3-4.【フィギア実験】時間帯による目立ち方の違い(主観評価)

 背景が道路の場合の時間帯による目立ち方の違いについて比較してみました。
 若年者・高齢者とも、日中・夕方・夜間の全ての実験結果において、最も目立たないのはダークグレーでした(図8)。つまり、背景が道路の場合、アスファルトがダークグレーであるため、黒よりもダークグレーの服の方がドライバーから気付かれにくい可能性があると考えられます。

図8 時間帯と年代の比較(背景:道路)
3-5.【フィギア実験】年代による黒の見え方の違い(主観評価)

 3-4で、背景が道路の場合、黒よりもダークグレーのほうが目立たないことがわかったので、年代によって黒の見え方に違いがあるのか比較しました。
 すると、若年者よりも高齢者の方が黒が目立たない傾向があることがわかりました(図9) 。なお、黒以外は若年者と高齢者での有意差はありませんでした。これは、高齢者は水晶体の混濁により輪郭が曖昧に見え、コントラストが明確に感じられないこと、黒がちょうど見えにくくなる境界付近のコントラストであったことから、年代による違いが生じたのではないかと予測されます。

図9 年代による黒の見え方の比較(背景:道路)
3-6.【フィギア実験】コートと背景のコントラスト(輝度コントラスト評価)

 なぜ黒よりもダークグレーの方が目立たないか原因を探るため、コートと背景それぞれの明るさ(輝度)を計測し、コートと背景の明るさにどれだけ差があるのかの割合を導き出しました。すると、夜間で背景が道路の場合、ダークグレーが13%と最も低く、背景との差が少ないことが分かりました(図10)。日中、夕方も明るさの差は同じ傾向でした。
 つまり、服装と道路の色(輝度)が近いほどドライバーから気付かれにくいことが分かりました。

図10 コートと背景の輝度コントラスト(背景:道路_夜間)
3-7.【実車実験・フィギア実験】まとめ

 実車実験と背景が道路の場合のフィギア実験の結果をまとめると、どちらも白が最も視認性が高く、ダークグレーが最も低くなることが共通していました。これは、コートと背景とのコントラストの結果でも示したように、背景となる道路と服装の色が強く影響しているためと考えられます。また、フィギア実験で黒のみ若年者と高齢者で見え方が違うことが分かりました。この件は、今後も着目し研究していきたいと思います。
 歩行者事故は横断中の事故が多いため、歩行者の背景が道路(アスファルト)である割合が高いと考え、今回は背景を道路とした実験結果を中心に説明しました。しかし、背景を街中とした実験結果では、歩道側にある街灯や建物の照明により背景となる道路の明るさが場所により異なることが要因となり、必ずしも同じ見え方にはなりませんでした。このように、今回の結論は一定の条件下での結果であり、全ての道路環境に当てはまりませんので、今後もさまざまな環境を想定した実験を実施できたらと考えています。

図11 実車実験とフィギア実験のまとめ

4.冬の外出着の現状

 冬の外出着の現状を把握するために、今回の研究結果を研究通信#3のアンケート結果に照らし合わせて検討してみました。
 冬用コートは約半数の人がモノトーンを好んで着ています。その中で、今回の研究結果で最も目立たない色であったダークグレーは14%、黒を含めると76%でした。つまり、モノトーンのコートを着用している人の4人中3人は夕方や夜間に目立たない色のコートで外出しておりドライバーから見えにくい状態であることが分かりました。

図12 よく着られている冬用コートの色(プライベート時)

5.モノトーンコーディネイトで「安全&おしゃれ度UP!」

 実験結果から、ドライバーから気付いてもらうためには、白いコートが一押しであることが明らかになりましたが、やはり外出時に着たいのは「黒やダークグレーのコート」という方も多いことでしょう。
 そこで、そのお気に入りのコートを活かしつつ、安全に役立ちおしゃれ度がアップするコーディネイトはいかがでしょうか。それは、「白またはライトグレー」のアイテムを合わせること。特に、どの角度からでも見える、帽子やマフラー、靴、斜め掛けのバッグなどがお薦めです。
 ワンアイテムからでも良いので、目立つアイテムを組み合わせて、おしゃれで安全な外出に変えてみませんか?

図13 モノトーンのコーディネイト提案

6.今後の展開

図14 有彩色のコート

 服装色の約半数はモノトーンでしたが、それ以外は有彩色です。そこで只今、有彩色の傾向についても調査中ですので楽しみにしていてください。

交通安全未来創造ラボから
歩行者、ドライバーの皆さんへのメッセージ

歩行者の皆さんへ

 今回の実験結果では、道路にいる歩行者については、
ダークグレーが最も見えにくいという結果になりました。
 また、高齢ドライバーの方は、若者より黒が見えにくい場合があることもわかりました。
そこで、皆さんがお出かけの際は、この実験結果を意識しておくと良いでしょう。
服装が上下ともに黒やダークグレーの日には、
なるべく白かライトグレーのファッションを差し色として加えるよう心がけてください。

ドライバーの皆さんへ

 秋冬にモノトーンのコートを着て外出している4人中3人は、
あなたが夕方や夜間の運転時に発見が遅れがちな、
道路と同化しやすいダークグレーや黒を着ています。十分に注意して運転してください。

レポート制作:
角田千枝特別研究員(相模女子大学 学芸学部 生活デザイン学科 教授)
共同研究:
村山敏夫特別研究員(新潟大学 人文社会科学系 教育学系列 准教授)
川守田拓志特別研究員(北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 視覚機能療法学 准教授)
〔渡邉翔 (元新潟大学 工学部 工学科 )〕
サポート:
堀越実研究員、大村佳子研究員、大槻裕茂研究員、平松真知子研究員
協力:
新潟文化自動車学校