大賞受賞者インタビュー<童話の部> あさば みゆき さん
<プロフィール>
書くことには以前から興味があり、これまでにもジュニア小説やホラー小説などの執筆経験がある。08年、長男を出産したことを機に、童話の創作に取り組む。育児と執筆を両立させ、初めての応募で見事、大賞を受賞。
<受賞作>
「鉄のキリンの海わたり」
あらすじ
港で暮らす鉄のキリンのじいさんは、船から陸へ荷を移す仕事を長年続け、若い鉄のキリンたちから尊敬を集めていた。ある日、親の元へ帰りたがっている男の子を救うために、その長い首に男の子をのせて、大海原へと踏み出す。幾日かが過ぎ、じいさんはついに、つま先立ちしても届かない海の深みにやってくる。戻ろうにも、足はサビで動かない。そこへ、海の青と空の青のあいだから、蒸気船が現れた。
息子に読んでほしい、優しい物語を書いていきます
- Q:大賞受賞の感想は?
- A:電話で連絡をいただいた時は、息子とお昼寝をしていたところだったので、はじめは何を言われているのか理解できなくて。「応募されましたよね」「出版経験はありますか?」と聞かれたことで、ようやくグランプリに応募したことを思い出し、すごく驚きました。初めての応募で大賞をいただけるなんて思ってもいなかったので、本当に嬉しいです。応募したことは主人にもナイショにしていたので、受賞を伝えたときは、主人もすごく驚いたようです。
- Q:童話を書いてみようと思ったきっかけは?
- A:もともと書くことは大好きで、独身の頃はジュニア小説やホラー小説などに挑戦したこともあります。童話も読むのは大好きでしたが、自分で書いてみようと思ったのは、長男を出産したことがきっかけでした。息子に読み聞かせてあげたい、優しいお話を書いてみたいと思ったんです。初めての育児で忙しい毎日を送っていたのですが、逆に、その流れと勢いの中で一気に書けてしまったのかもしれません。
- Q:作品の着想はどこから?
- A:主人が運転する車で湾岸高速を走っているとき、港に並んでいるクレーンを見て「あ、キリンだ」と思ったのがきっかけです。キリンが海に向かって立っている、そのまま歩いて海に入って行ったらどうなるだろう、サビるだろうな・・・。そんなシンプルな発想から生まれたお話です。
- Q:作品を書く上で、苦労した点は?
- A:これまではプロットを作ってからお話を書いていたのですが、今回は思いつくままにサッと書いてしまった気がします。バージョンの違う物語をいくつか書いてみて、最後に応募を意識して10枚にまとめたら、こんなお話しになりました。実は、最初に書いたお話では、キリンはおじいさんではなく若者で、自分の力を試すために海に出る、という物語だったんです。枚数も、かなり多かったと思います。何度か書き直すうちにどんどん変わってきましたが、とてもスムーズに仕上がったので、とくに苦労したことはありません。
- Q:この作品の中で伝えたかったことは?
- A:読んでくれた知人から、「おじいさんキリンが自分の神様に従って海に出る部分がいいね」と言われました。戒律の厳しい宗教的な神様ではなく、自分自身の良心に従って生きていくことが大切だ、というメッセージが素敵だね、と。私はとくに意識して書いたわけではなかったのですが、今は「その通りだな」と思っています。人から強いられたからやるのではなく、自分の自由な心で、正しいと思ったことをやる。そうすることで、自分の新たな居場所やステージが開かれる。そんなメッセージを伝えられたら、と思っています。
- Q:今後の抱負をお聞かせください
- A:昨年、出産を経験して以来、自分の遺伝子を継いだ子どもがいることを実感しながら、日々の生活を送っています。この子は、成長していく過程で、辛いことや悲しいことをたくさん経験するでしょう。そんな時、自分が書いたお話を読んで勇気づけられ、温かい気持ちになってくれたら、と思っています。そんな、優しさを伝えられるお話を書いていきたいですね。
もう一つの夢は、グラフィックデザイナーである主人と一緒に、息子を主人公にした絵本を作ること。これからも努力を続けて、ずっと童話を書いていきたいと思っています。