日産技報 No.89 (2023)
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*先端材料・プロセス研究所高透明・大面積の透明ガラスディスプレイの実現に向けて、光スイッチングが可能な透明液晶フィルムと光源・プロジェクタとから構成される新しい原理の光駆動型透明液晶ディスプレイの原理実証を行った。透明液晶フィルムを光駆動とするため、アゾベンゼンのシス-トランス光異性化反応により、透明状態とスクリーン状態の光学的変換を実現した。さらに、トランス状態とシス状態のヘリカルねじれ強度(HTP)の差を大きくすることで、スクリーン反射率を向上させた。近年、透明ディスプレイは、店舗の看板や自動車のウィンドウなどに積極的に展開されている。透明ディスプレイには、大型化、優れた柔軟性、高透明性、低価格化、および高いコントラストといったことが求められている。有機ELディスプレイ[1]は、透明ディスプレイの一種である。有機ELディスプレイは大型化が可能で、視野角が広く、色域に優れ、そして解像度が高いなど、画質の面でもメリットがある。しかし、有機ELは画素ごとに複数の薄膜トランジスタ(TFT)やキャパシタを搭載しているため、透過率が低くなってしまう。電気によるスイッチング方式の透明液晶ディスプレイ(LCD)も同様に透明ディスプレイの一種である。TFTを用いたポリマー分散型液晶(PDLC)ディスプレイ[2, 3]は、各画素の開口率が高いため、透明状態において80%を超える高い透過率を達成することが可能である。有機ELディスプレイやLCDなどのTFTを用いたフレキシブルディスプレイを車載用ウィンドウなどの曲面に搭載する場合は、その柔軟性が要求される。基板表面へのTFTの形成には、一般的に透明で高価なポリイミド(PI)フィルムが使用される。現在までのところ、透明PIフィルムに対する需要は最先端のオプトエレクトロニクス製品にのみ限定されており、経済的ではないというのが現状である[4]。しかし、酸化インジウムスズ(ITO)を塗布したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた透明PDLCやポリマーネットワーク液晶(PNLC)ディスプレイが安価に市販されるようになってきた。プロジェクターとPDLCやPNLCの組み合わせによる透明ディスプレイが報告されている[5, 6]。しかし、電圧印加により透明状態からスクリーン状態に制御できる領域は、ITOコーティング次第で限定されるものであった。そのため、車のフロントガラスの全域に装着すると、スクリーン状態においてドライバーの視界を遮ってしまうという問題があった。電気的なスイッチング方式に代わり、キラルアゾベンゼン化合物を添加した液晶(LC)の光スイッチング方式が提案された[7, 8]。高い透明性、柔軟性、および画面領域制御が期待できる。キラルアゾベンゼンと逆キラリティの非フォトクロミックキラル化合物をホストネマチック液晶中で混合し、両キラル化合物のヘリカルねじれ強度(HTP)のバランス調整により、透明ネマチック相液晶を形成させた。紫外線(UV)照射によりキラルアゾベンゼン化合物のHTPを低下させ、シス-トランス光異性化を誘発し、補償ネマチック液晶をコレステリック相に転移させた。その結果、光駆動のスイッチング液晶膜は、透明状態から光散乱スクリーン状態へと変化した。この状態に、可視光(Vis)照射により、透過率を回復させ透明状態へもどることができる。しかし、反射率については調査されていない。本論文では、光駆動方式の透明液晶フィルムを用いて、新しい原理の光駆動型透明液晶ディスプレイを提案する。また、ディスプレイの視認性を上げるため、アゾベンゼンのΔHTPを大きくすることでスクリーン反射率を高めた結果について報告する。図1は、光駆動型透明液晶ディスプレイのシステムレイアウトを示したものである。光駆動型透明液晶フィルム、Visプロジェクター、UV LED、および青色LEDで構成されている。通常は透明である透明液晶フィルムにUVを照射すると、その照射91概 要受賞:2021年 International Display Workshops Best Paper AwardOptically Switchable Transparent Liquid Crystal Display太田 最実*  鍋谷 俊太*  上久保 真紀*小原 朋也*  前橋 良太*  佐藤 文紀*1. はじめに2. 透明液晶における光スイッチングの原理2.1 システムの設定(光駆動型透明液晶ディスプレイ)

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