日産技報 No.89 (2023)
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Fig.9 Pitch Sensitivity Experimental SceneFig.10 Driver’s Sensitivity for Pitch Motionまた、いくつかの先行研究3), 4) において、操舵に対して車両前下がりのピッチ挙動とした方が、ピッチ挙動を与えない場合や前上がりとした場合と比較して、旋回時のフィーリングあるいはフィーリングと相関の高い特性が向上することが報告されており、本研究でも、操舵に対して車両前下がりのピッチ挙動を付加することとした。ドライバが感知できる最小のピッチ挙動を把握するために、ドライビングシミュレータを用いた感度実験を行った。図9に実験風景を示す。ドライバには前方のスクリーンの景色を注視した状態で、車両に下向きで一定のピッチレイトを与え、ピッチの動きを感知した瞬間に手元のスイッチを押すように指示をした。ピッチレイトの値は0.0125deg/sの極めてゆっくりした速さのものから、0.3deg/sという比較的速いものまで、計8つのピッチレイト違いの実験をそれぞれ5回ずつ実施し、試行回ごとにドライバが感知したピッチ角を記録した。図10に計測結果を示す。実験した8仕様のピッチレイトを横軸に、それぞれのピッチレイトでドライバが感知したピッチ角を縦軸として、実験評価者25名の計測データをドットで、それぞれの平均値を実線で結んだラインで示した。なお、ピッチレイトが最も速い0.3deg/sの仕様では、すべてのドライバがピッチの動きが始まった瞬間にその動きを感じ取れることが、ボタン操作の様子と評価コメントから確認されたため、図10のデータは0.3deg/sのピッチレイトを発生させた瞬間からボタンが押されるまでの時間差をドライバの操作時間と考え、すべてのドライバの操作時間の平均値0.51sを全実験生データから差し引き、補正した上で示したものである。受賞:第72回 自動車技術会賞 論文賞(2022年) - 微小操舵角域のライントレースのバラツキを低減するピッチ特性に関する研究SAE International Journal of Advances and Current Practices in Mobility - VCターボエンジンに対応した4.2 走行軌跡のバラツキを低減するピッチ特性の仮説ドライバが操舵入力をしたと認識するとともに、車両がヨー運動を開始する操舵角1deg付近で、車両が応答していること、更にそのヨーの動きが増加していることを、ピッチ挙動を使ってドライバに感知させるためのピッチ特性の仮説を立てる。ピッチ挙動の与え方として、操舵角比例、操舵角速度比例、またそれぞれに非線形性を加えたもの等、様々なパターンのものが考えられるが、本研究では、可能な限り単純化した状態でそのメカニズムを検証することを目的として、その中でも最もシンプルな、図11の示す操舵角に比例したピッチ角(下向き)を選定し、必要な比例定数の仮説を立てることとした。また、既報の研究の実験結果から、対象とするシーンでは、ドライバは概ね3deg/sの角速度で操舵を行うことが確認されているため、この操舵角速度を前提条件に加えた。ピッチレイトが0.05deg/s以下の遅い角速度では、ドライバはいずれも0.15~0.2degのピッチ角でその動きを感知していることが分かる(グラフ左側の領域)。これは、ドライバが0.05deg/s以下のピッチレイトを感知することが出来ず、積算されたピッチ角の大きさによって、初めてその動きを感知しているためと考えられる。一方、0.3deg/sあるいはそれに近い速いピッチレイトでは、ピッチ角がほとんど発生していない状態で、ドライバがその動きを感知していることが確認できる(グラフ右側の領域)。これは、前述の通りこの速さのピッチレイトでは、ドライバが速さそのものを感知できるためと考えられる。そしてこれら二つの領域に挟まれる中央の領域は、ドライバがピッチレイトの速さとピッチ角の大きさを総合して感じ取っている領域と考えられ、その感度は二つの領域をつなぐ右下がりのラインになったものと考えられる。以降、この感度ラインを使って、ヨーの動き始めたことをドライバに感知させるためのピッチ挙動の仮説を立てる。8512日産技報 No.88 (2022)4.1 ピッチ挙動に対するドライバの感度調査4. 車両ピッチ挙動を用いた走行軌跡バラツキ低減仮説の立案

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