*モビリティ&AI研究所 **パワートレイン・EV性能開発部 ***カスタマーパフォーマンス&実験技術革新部 ****先行車両性能開発部抄録 直進走行でドライバが走行レーン中央を維持するために行うような、微小な操舵シーンにおいて、操舵角に比例した微小な車両下向きピッチ角を付加することによって、ドライバが行う操舵のバラツキが減少すること、その定量的な関係を解明した。既報の「微小操舵角領域のライントレース性を向上する操舵力とヨー特性に関する研究」で解明した、同シーンで正確な操舵を可能とする操舵反力と車両ヨー特性の関係と組み合わせることで、ドライバが目標とする走行ラインに対して、正確な操舵をバラツキ少なく実行できるようになることを確認した。一般的なドライバの日常での走行シーンを考えると、微小な操舵で車両の走行軌跡を微調整するようなシーンを含めて、概ね直進走行といえるシーンがその大半を占めていることが想像できる。筆者らが欧州および日本で実施したある調査では、微小な操舵といえる操舵角5deg以下の頻度は、全車速帯で51.1%と半分以上、80kph以上の車速帯では79.6%と約8割を占め、それらを裏付ける結果が確認されている。このような微小操舵角で目標とした走行ラインに沿って車両をトレースするライントレース性は、多くのドライバにとって遭遇頻度の高い重要な性能であるが、そのメカニズムは十分に解明されておらず、実際の開発現場ではその性能開発を実車によるチューニングに頼っているケースが多い。本課題に対し、既報の研究「微小操舵角域のライントレース性に対する操舵力とヨー特性の関係解明」1) では、微小操舵角域のドライバの不感帯、車両のヨー特性の不感帯を定量的に把握し、研究で定義したライントレース性の評価量と2つの不感帯の関係を分析することによって、ライントレース性に対する操舵力とヨー特性の定量的な関係を明らかにした。しかし同時に、ドライバの試行回ごとの走行軌跡が大きくばらつくことが、新たな課題の一つとして確認された。本研究では、走行軌跡のバラツキ要因の一つが、微小域のドライバの操舵のメカニズムの中に潜んでいることに着目し、操舵に対してある量の車両ピッチ挙動を付加することでそのバSAE International Journal of Advances and Current Practices in Mobility - VCターボエンジンに対応した日産技報 No.89 (2023)ラツキを低減出来るという仮説の立案とドライビングシミュレータを使った検証、そしてその定量的なバラツキ低減効果を抽出した。既報の研究で取り組んだ、ドライバが目標とした走行ラインを平均して正確に走行できる車両特性の解明に加えて、試行回ごとのバラツキが少ない、毎回正確に走行するための車両特性の解明に取り組んだ。研究の流れとして、最初に既報の研究の概要と今回の課題である走行軌跡のバラツキについて述べる。次に、同じく既報の研究で仮説として定義した微小操舵角域のドライバの操舵のメカニズムの中からバラツキの要因になっていると考えられる現象を考察し、そのバラツキを低減するために追加する車両挙動としてピッチを選定した理由について説明する。そして、実験で得られたドライバのピッチ挙動に対する感度特性から走行軌跡のバラツキを低減できる定量的なピッチ特性の仮説を立て、最後にその実験検証結果を示す。なお、本研究で実施した二つの実験は、日常から通勤等で車を運転している20~50代の一般男性25名を対象に、日産自動車(株)実験倫理委員会の審査を受けて承認を得た内容により、実験参加者からインフォームドコンセントを得た上で実施したものである。既報の研究では、図1のような、80kphの一定速直進走行から、概ね5deg前後の操舵入力となる、1200Rのカーブとその緩和区間で構成される評価コースを設定、それを目標ライン829受賞:第72回 自動車技術会賞 論文賞(2022年)田尾 光規* 町田 直也** 林 豊*** 長棹 謙****受賞1. まえがき2. 既報の研究の概要と課題微小操舵角域のライントレースのバラツキを低減するピッチ特性に関する研究
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