日産技報 No.89 (2023)
79/103

*統合CAE・PLM部  **モビリティ&AI研究所抄録   燃費性能の競争力向上や新たな環境規制に対応するため、より一層の空気抵抗の低減が求められている。そこで、より高い空力性能の実現に向けて、造形デザイナーや空力エンジニアが限られた期間内に多数のデザイン案の空力予測を行えるツールの開発を行った。本研究では、短時間に空力性能を予測できるように、CFD (Computational Fluid Dynamics)の代わりに機械学習を用いた予測モデルを開発した。本論文では、開発した機械学習モデルおよび学習に使用したデータセットの概要、予測精度や計算時間について報告する。2.1 既存研究近年、自動車市場における燃費性能の競争力向上や新たな環境規制に対応するため、より一層の空気抵抗の低減が求められている。自動車の空力性能開発において空気抵抗を評価する場合、風洞実験と並んでComputational Fluid Dynamics (CFD)も多用される(1,2)。しかし、CFDを行うためには多額の費用と時間が必要となる。特にCFDについては、実験評価前の事前計算や評価仕様数の増加、更に計算精度向上といった要求も加わりCFDの計算量、計算時間は年々増加している。そこで本研究では機械学習を用いて、自動車形状とCFDの計算結果の関係を学習することにより、CFD結果(流速、圧力および空気抵抗係数)を推定するサロゲートモデルの開発を試みた。これにより、空力解析をCFDから機械学習モデルに置換えることが可能となり、CFDの計算時間の短縮と計算量、コストの削減が期待できる。本論文では、提案手法とデータセットの概要および検証結果について報告する。これまでも本研究と同種の研究は存在する。Umetaniら(3)は自動車の空気抵抗係数(CD値)および流れ場の推定を目的に、自動車形状を数値化した特徴量とCFDの計算結果(流速、圧力、CD値)をGaussian processを用いて学習、推定するSAE International Journal of Advances and Current Practices in Mobility - VCターボエンジンに対応した日産技報 No.89 (2023)機械学習モデルを構築した。Umetaniらは約800の自動車形状とCFD結果について学習を行い、CD値および流れ場の推定結果はCFDの計算結果と比較して良く一致すると報告しており本研究の参考となる。しかし、より現実に近い自動車形状を学習する場合には課題がある。この手法ではPolyCubeと呼ばれる多面体を使用しており、PolyCubeの構成点をトポロジーが変わらない範囲で自動車形状にプロジェクションする。このプロジェクションされた各構成点の座標や高さを特徴量として使用しており、学習対象の自動車形状に近いトポロジーのPolyCubeを用意する必要がある。しかし、実際の自動車形状はセダン(3BOX)やハッチバック(2BOX)、ミニバン(1BOX)など、トポロジーが異なっており同一のPolyCubeを用いることは難しい。これについては、各車型に適したPolyCubeを用意し、個別に学習することも考えられるが手間を要する。また、実際の自動車にはエンジンルーム部品、タイヤ、フロアー部品、ドアミラーといった複雑な形状が存在するが、このような複雑な形状要素を表現できるトポロジーを持ったPolyCubeを用意することは簡単ではない。このため、Umetaniらの事例は比較的シンプルな自動車形状への適用にとどまっている。一方で、Guoら(4)は、物体からの距離を表わす距離関数を入力データとし、2次元および3次元の流れ場(流速ベクトル、圧力)を推定する機械学習モデルをConvolutional Neural Network(CNN)(5)を用いて構築した。距離関数は複雑な形状に対しても適用が可能であり、かつ3次元への拡張も比較的容易なため、流れ場(流速、圧力)の推定についてはGuoらが提案するネットワーク構造を採用する。741受賞:第72回 自動車技術会賞 論文賞(2022年)赤坂 啓*  陳 放歌**  寺口 剛仁**受賞1. まえがき2. 機械学習モデル機械学習を用いた自動車空力性能を予測するためのサロゲートモデル開発

元のページ  ../index.html#79

このブックを見る