日産技報 No.89 (2023)
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図7 Mass attenuation coefficient図5 鉄製車体サイドシルのX線CT像(断面)図6 鉄ボルト円筒部のメタルアーチファクト金属フィルタ適用によるノイズ低減効果の例を図5に示す。鉄からのメタルアーチファクトノイズが低減していることが確認できる。図5から分かるように、部品形状に対してメタルアーチファクトノイズは複雑に現れる。部品形状に起因するノイズ影響を低減するために、図6に示す単純な鉄製ボルトで金属フィルタのノイズ低減効果を評価した。金属フィルタには、1mmtの銅板とアルミ板を準備した。CT画像を得るための再構成のアルゴリズムは一般的なFBP(Filtered Back Projection)を用いた。図6では、メタルアーチファクトノイズを視覚的に強調するため、明るさを補正している。メタルアーチファクトノイズは図6のボルトCT画像の2つのボルト接線から発生している白いスジ状の虚像である。ノイズ低減効果は、銅フィルタ > アルミフィルタ > フィルタなしの順に大きいことが確認できる。(4)ノイズ低減効果を定量評価する指標を、医療分野で用いられているAIr(Relative Artifact Index)(3)にした。AIrが1に近いほど、ノイズが低減していることを表す。図6のボルト付近域でのAIr(*)を算出した結果を表1に示す。フィルタなしのAIrは2.3であり、アルミフィルタでは2.0, 銅フィルタでは1.3に低減している。上記の結果から、金属フィルタの材質によってノイズ低減効果に違いがあること、アルミフィルタに比べて銅フィルタのノイズ低減効果が大きいことが分かる。特集2:電動化に貢献する実験技術 - 6. 車体軽量化技術を支えるX線CT非破壊計測技術図5において金属フィルタを使用するとノイズの低減効果が得られていることから、その要因であるハードニングが弱まっていると考える。ハードニングが弱まる要因として、入射されるX線の低エネルギー側の分布が金属フィルタによって変化していると推察した。例えば、物質にX線を照射することで得られる吸収スペクトルを解析するX 線吸収微細構造(XAFS)では、物質固有の吸収端と呼ばれる電子軌道間を遷移するエネルギーで吸収が著しく増加する原理を応用している。遷移する電子軌道がK殻の場合はK吸収端と呼び、金属フィルタの効果として、この吸収端の影響に着目した。高エネルギーから低エネルギーにおけるX線の吸収量の変化を確認するため、吸収に影響する物理量の1つである X線の減弱係数を理論的に試算した。その結果を図7に示す。グラフは横軸がX線エネルギー、縦軸が減弱係数の値を示す。減弱係数の値が大きいほど、X線の減衰も大きくなる。本グラフから、減弱係数はX線のエネルギーに応じて変化し、低エネルギーほど大きくなることが分かる。銅は8keVのK吸収端部で急激に大きくなっており、アルミに対して約8倍の値となっている。この結果から、入射されるX線のエネルギー分布変化は、低エネルギーで顕著な違いとなり、ハードニング593.3 金属フィルタによるノイズ低減効果3.4 ノイズ低減に関する考察と仮説立案表1 金属フィルタ材料によるノイズ低減効果

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