日産技報 No.89 (2023)
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図1 EV熱マネジメント対象構成部品図2 冷却システム図*カスタマーパフォーマンス&第二車両実験部電動化は、従来のICE車(Internal Combustion Engine:内燃機関)には無かった、モーター、インバータ、強電バッテリーでパワートレインが構成される。(図1、図2)ICEに比較して排熱が減る一方、これらの構成部品の温度環境を適切にコントロールしなければ、効率や信頼性を確保することが出来ない。そのため、これらの熱環境を適切にコントロールする「熱マネジメント」の重要性が高まっている。ICEにおいては、エンジンからの排熱はとても大きいため、室内を暖める熱源は主にエンジンからの排熱を使っている。一方、電動車はバッテリーの電力を使って熱を作り出す必要がある。そのため、うまく電力を使わないと、走行に回せる電力が減ってしまうことになる。更に、バッテリーは内部抵抗により発熱するが、熱環境によっては性能や寿命が低下するため、適切な温度に制御しなければならない。そのため、「室内快適性」「e-PT」「バッテリー」の熱環境と「電費」を両立できるよう、コントロールする必要がある。ICEはエアコンON-OFF、エンジン発熱時の放熱量など、作動条件を区切って個別に実験評価を行うことが出来ていた。しかしEVはモーターやバッテリー、インバータなどを温調するために、エアコンの冷却エネルギーを使う。そのため、エアコンで使用している電動コンプレッサは、エアコンON-OFFだけではなく、バッテリーからの冷却要求に応じて運転する事になる。更に、バッテリーの温度環境を保つために途中でバッテリー冷却のみ運転を止めたりする必要がある。これら組み合わせにより運転モードが増加する事に加え、これらの運転モードは過渡的に変化するため、これらの実験で得られる大量の時系列データを処理しなければならない。EVの暖房はICEと違って排熱を利用することが出来ないため、バッテリーの電力を使って熱を作り出すことになる。そのため、バッテリーからの消費電力が増加し、航続距離に影響を及ぼす。この影響を最小限にするために、外気から熱を奪い、車室内の暖房として利用するヒートポンプシステムが主流となっている。高外気時の冷房に加え、低外気時も外から奪う熱を確保するために、コンプレッサを高回転で運転する必要がある。電動コンプレッサにより任意にコンプレッサ回転数を制御できる一方、EVの魅力である低騒音環境に追従するために、コンプレッサなどの冷却部品も低騒音化を行わなければならない。532.1 実験条件の増加2.2 EV冷却システムへの要件追加特集2:電動化に貢献する実験技術田尻 政義*1. はじめに2. EV熱マネジメント実験における課題5. 電費と快適性の両立を実現する熱マネジメントシステム実験技術

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