図1 パワートレイン開発プロセス模式図(Vプロセス)*パワートレイン実験部 **パワートレイン・EV先進技術開発部地球環境問題、特に地球温暖化防止に対応するため、自動車から排出される二酸化炭素の削減が求められている。自動車会社各社は動力源の電動化、たとえば従来のエンジンと走行用モータを組み合わせたハイブリッド自動車、または走行用モータのみで走行するバッテリEV(Electric Vehicle)の開発および商品化を急いでいる。従来のエンジンのみで走行する自動車と異なり、電動化されたパワートレインを搭載する自動車の開発はそのプロセスや評価項目が異なるが、開発の歴史が浅く効率的な開発を行ううえで改善の余地がある。比較的下流工程において試作車両を用いて開発される電動パワートレインの場合、その評価をパワートレインシステムを搭載した台上実験室にて、開発のより上流工程において実施する事で、短期間でのフィードバックを行う事ができ、開発期間短縮に大きく貢献できる。本章では、日産自動車ユニークな電動化パワートレインシステムであるe-POWERシステムの開発において、その上流工程における台上実験にて各種性能を適合可能とする実験技術、リアルなパワートレインシステムとバーチャルな車両システムとの組合せにより、車両走行状態を再現可能とするパワートレインVRS(Virtual Real Simulator)システム実験技術を用いた、パワートレイン開発業務のフロントローディング化による開発品質向上、開発期間短縮について述べる。車両開発は沢山の工程を経て行われるが、そのプロセスをV字になぞらせて表現する事が多い。図1に、弊社パワートレイン開発プロセスの模式図を示す。左上の市場要求を元にした車両目標を基点に、システムやコンポーネントへの性能割付や部品設計・部品評価を経て、V字の右バンクにおいてシステム・コンポーネント評価、車用評価を行う。仮に開発の後流工程である車両評価で不具合が出た場合、開発プロセス全体として大きく後れが出る。パワートレイン開発においては、車両評価の工程での不具合を未然に防ぐ事で車両開発全体の効率化を行えるため、車両を模擬したパワートレインシステムでの台上実験が重要である。図2に、VRS実験システムの概念図を示す。e-POWERシステムは、発電用エンジン、発電用モータ、走行用モータ、インバータ、バッテリで構成されるが、バッテリを除くパワートレインシステムをリアルに台上実験室へ設置する。走行用モータから出力される動力は、ダイナモメータにて吸収される。ダイナモ制御システムにおいて、車両を模擬するモデルが用いられ、自動車のドライバーや走行抵抗、道路負荷などを模擬し、決められた走行モードをトレースする。指示を受けたパワートレインのコントローラーが、要求負荷に合わせて走行モータを制御する。また、バッテリモデルがある所定の容量を下回り、エンジンへ発電指示が出た際には、発電用モータがエンジン始動させ、別な所定の容量を上回ると、エンジンへ停止指示が出され、発電用モータがエンジンを停止させる。492.1 開発プロセス2.2 VRS実験システム概要特集2:電動化に貢献する実験技術4. 実車を使わずに電動パワートレイン性能を最適化する中本 英伸* 平谷 康治* 谷合 宏之**1. はじめに2. 開発プロセスと実験システムバーチャル リアル シミュレータ実験技術
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