図1 格納式ドアハンドルの採用例*カスタマーパフォーマンス&第二車両実験部近年競争が激化している電動車両開発において、航続距離の確保は重要な領域のうちの1つである。走行中にドアハンドルを格納する格納式ドアハンドルを、空気抵抗改善による航続距離の改善の一方策として検討している。格納式ドアハンドルには、空気抵抗改善に加えて、格納時の見た目のすっきり感や乗車時に自動で展開するおもてなし感など情緒的な付加価値の提供も期待できる。量産車への採用事例を見ると、ドアハンドルの突出形態が平行型、片持ち型などスタイルが異なっており(図1)、例えば、ドアハンドルの突出・格納という自動的な動きに対する印象を作り込むことで、情緒的な価値を提供できる。情緒的価値、具体的には、対象機能から受ける印象を開発する為には、対象機能の使用体験をどう感じているかを評価する必要がある。日産自動車では、Proof of Concept(概念実証)の考え方に沿って、バーチャルリアリティ(以下VR)技術を活用して機能の使用体験を再現し、印象を主観評価している。本章では、自動車の機能開発において、機能の使用体験の印象を評価可能なVR評価環境を自社開発し、格納式ドアハンドルの先行検討に適用した事例を紹介し、情緒的価値の開発に対する本評価手法の有効性について述べる。自動車の機能の情緒的価値を評価するには、対象機能の使用体験から受ける印象を評価することになる。印象の評価は、人がどう感じているかを測る心理的側面に対応した測定法を選択する必要があり、日産自動車の開発では、対応する物理量と関わりなく、主観的印象を測定する方法(心理学的尺度構成法)を用いることが多い。主観的印象を直接確認する評価となる為、評価対象機能の使用体験の再現精度が、評価結果に大きな影響を及ぼす。これまでの自動車開発における使用体験の再現は、車体や内装を実際の大きさで再現した物理的モックアップを使うことが多かった。しかし、近年、増加傾向にある部品の動きを伴う機能については、物理的モックアップでは、動きの再現試作に時間を要する為、開発期間内での評価が困難である。そこで、バーチャル空間で、車体や内装を設計CADデータで再現し、機能の動きをプログラムで再現することで、短期間で使用体験できるVR評価環境を開発した。格納式ドアハンドルの先行検討への適用事例を紹介する。格納式ドアハンドルの一般的な想定機能は、乗車時にリモートキーでドアを解錠するとドアハンドルが自動で突出し、走行開始後にドアハンドルが自動で格納される、降車時にドアを開けるとドアハンドルが自動で突出し、ドアを閉めて鍵をかけるとドアハンドルが自動で格納されるものである(図2)。45特集2:電動化に貢献する実験技術丸勢 修* 中園 泰徳* 久芳 憲治* 上野 英里奈*1. はじめに2. 情緒的価値の評価手法3. VR評価環境の構築3. 新機構部品の品質を試作レスで評価できるバーチャルリアリティ実験技術
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