日産技報 No.89 (2023)
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図11 Performance design process図10 AURA NISMO図8 伸び感の検証方法図9 官能評価結果加速の伸び感を出すため、アクセル開度に対するピーク加速度後の加速度減少について検証を行った(図8)。ピーク加速度後に加速度の落ち代が小さいほど、伸びのある加速感を強く感じる。しかし、出力に上限があるため、ピーク加速度を継続するのは難しい。加速度の落ち代をコントロールする事で、伸びのある加速感を実現しようとした。試験はDSのY並進レールを前後加速評価に使用し、0.3G加速であれば約3秒の評価が可能である。実際は減速区間もあるため、短時間の評価となるが変化は十分体感可能である。試験は図8のように、ピーク加速度後の落とし方を変化させ、評点をつけた。発進付近の速度と中速域では、加速度の落ち代による評点が異なる事が分かった。微低速は0.04G/以下、中速域で0.025G/s以下の加速度減少率で、伸びのある加速を感じる事ができる事を確認した(図9)。この結果を元に、AURA NISMOは専用チューニングを施し、NISMOらしく力強く伸びのある加速感を味わえる「NISMO」モードを設定している。DSの試験は3日間で約130仕様の評価を実施した。これは実車であれば同評価は約6週間相当のである。安定した評価が行えるDSでなければ、短期間で分析する事は不可能だったと言える結果である。特集2:電動化に貢献する実験技術 - 2. 電動車ならではの性能を創りこむドライビングシミュレータ実験技術当社の自動車開発では定量的な性能評価以外に、乗員の感覚までを含んだ設計手法が求められている。CAEのシミュレーションを活用した車両、システムの挙動予測に対する研究所報告は数多くあるが、人間の主観評価までを含んだ性能予測や設計に関する報告は少ない。また、人の主観評価は人間の感覚の予測が必要であり、そのモデル化は未知の部分が多くなっている。過去のデータ、経験に基づいた性能設計が行えても、全く新しい挙動や性能を検証するには実車試験以外の選択肢しかないが、膨大な試作車両を製作するのは困難である。e-4ORCEの制御開発において、CAEによるシミュレーションを活用した設計や性能予測以外に、人間の主観評価を行う事で、従来では難しかった乗員の感覚までを含めた開発を実施した。DSを用いる事で、試作車を用いることなく、網羅的に感覚を含めた試験を効率よく開発する事ができた。人間の主観評価、乗員の影響をも考慮した性能設計手法について紹介する。図11にDS、人体シミュレーション、車両挙動シミュレーションを用いた性能設計手法を示す。今回の電動AWDによって変更することができる車両状態量を検討し、DSを用いてそれぞれの状態量に対する主観感度分析を実施する。主観感度分析の結果から、人間の感覚に対して最も影響するパラメータを確定し、それについて人体シミュレーションを用いたメカニズム解明と定量指標値への落とし込みを実施する。落とし込んだ目標定量値から車両シミュレーションを用いて、目標性能に達するような制御ロジック及び車両諸元を確認する。最終的な車両諸元、及び制御ロジックを用いて改めてドライビングシミュレータでの実車前妥当性評価を行った後、実車実験で最終確認を行うプロセスを実施する。以上のプロセスを踏むことで、人間の主観評価まで含んだ性能を予測し、実車での効率的な開発が可能となった。423.2 e-4ORCEの加減速制御開発(1)

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