図4 VDC HILS (日産技報No.71より引用)いる。では、実際のリアルな試作車両が無い中で、いかにしてその性能を評価するのか? コンピュータシミュレーションを活用することもあれば、車両の一部だけを再現したモックアップを作製することもある。評価対象とする性能やシステムに応じて、何をどう再現するのかがデジタルフェーズにおける技術検討課題である。例えば、空力性能を評価するには車両の形を正確に再現しつつ、簡便に形状変更→評価のトライ&エラーを繰り返せるようにクレイモデルを作製するというのが伝統的な手法であり、近年ではエンジンルーム内や床下の構造まで忠実に再現する。ただし再現するのは形だけで、このモデルは走らないしエンジンも回らない。何をどこまで再現するかを決めるのも実験エンジニアである。最近は3Dプリンタによる部分試作を行うことも多くなった。特に実績のない新規構造や新機能を持った部品の事前評価には重宝している。実際の部品と比較すると強度や耐久性に劣ったり、表面の仕上がりが異なったりするが、実際に触れて使い勝手などをフィジカルに評価できるというメリットがある。さらにコンピュータシミュレーションによるバーチャルな評価環境・供試品と、リアルなモックアップや先行試作品を組み合わせて実験するということも増えてきている。図4は過去に日産技報(2012年、No.71)で紹介したHILS (Hardware in the Loop Simulation)の例だが、ここではブレーキマスターシリンダ~VDCユニット(ECU、アクチュエータ一体)~ブレーキチューブ・ホース~ブレーキユニットのブレーキ油圧回路一連をリアル(実機)で、それ以外の車両モデルをバーチャル(CAE)で再現して組合わせている。何をバーチャルで再現し、何をリアルで再現するのか、それらをどう組み合わせて評価するのか、見極めて実現させる。実験技術を語る上で、もう一つ重要な要素は計測技術である。車両性能を客観的・定量的に捉えるためには計測することが必須である。PGの路面を再現し維持するためにも、市場環境を台上設備で再現するにも、設計データを衝にして試作特集2:電動化に貢献する実験技術 - 1. 電動車両の競争力を支える実験技術とは品を再現するにも、必要十分な精度で計測しなければならない。現象メカニズムを解明するため、知りたいことを測れるようにするには、新たな計測技術の開発が必要である。また、実験結果の精度を担保するためには計測精度保証技術が重要であり、計測精度保証に必要な設備である計測標準センターや、その中で用いる校正機器の企画・導入・維持もまた実験部のエンジニアが担っている。近年、地球温暖化等の環境問題への対応として車両の電動化を進めている。成熟した技術領域の新車適用開発であれば、標準化されたノウハウを用いてVプロセスに沿って(比較的)スムーズに開発を進めていくことができるが、新しい技術を採用する場合はVプロセス左側の目標設定から性能計画のフェーズで実験による仮説検証を行い、その新技術の価値を最大化するとともに、開発の早い段階で性能の成立性を見極めて手戻りを減らすことが必要となる。これによって、お客さまにとって価値の高い、競争力の高い商品を開発することができる。車両の電動化における最初の、そして最大の変化点は、動力源が内燃機関(Internal Combustion Engine, ICE)から電気モータに置き換わる点である。一般に電気モータはICEよりもレスポンスに優れており、きめ細かい制御が可能となる。これにより車両の運動性能を高めることが可能となる。BEV(Battery Electric Vehicle)ではバッテリに蓄えた電力で駆動用モータを回して車両を動かしている。また、日産独自の電動化技術であるe-POWERでは発電専用のICEで発電用モータを駆動し、その電力で駆動用モータを回して車両を動かしている。BEVでもe-POWERでも従来のICE車に比べると電子制御で性能をコントロールできる幅が広がり、自由度が増えている。自由度が増えた中で最適解を見つけるには、より多くの仕様を実験する必要が生じる。これを先行試作車両による実車実験でやり切ろうとすると、車両の試作・改造(仕様変更)および実験評価を繰り返すのに多大な期間・工数・費用を要する。そこで、上述したバーチャル技術を活用した台上実験技術を適用する。このあとの章で紹介するドライビングシミュレータ実験技術やe-POWERパワートレイン台上実験技術は、そのような背景から生み出したものである。352.5 計測技術3. 電動車開発に貢献する新たな実験技術
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