日産技報 No.89 (2023)
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図2 日産自動車/北海道陸別試験場のPG図3 台上設備の例としてロードシミュレータの写真コースの平面形状や起伏、路面の組合せは無限にあるが、より効率的・効果的に各種性能を実験評価し計測・分析するために必要なコースを設計していく。世の中に実在する道路や路面を再現する場合も多い。乗り心地が悪くて有名な道、ロードノイズや低級音にキビシイ道、ハンドリングの良し悪しが分かる道、等々。どういう道をPGに再現すべきか見極めるのも実験技術の1つである。例えば、日産自動車/北海道陸別試験場のPGはドイツのアウトバーンやカントリーロードを再現するよう作られている。冬季は日本一寒い寒地試験場となり、圧雪路やアイスバーンなどの路面が再現される。PGで実験すれば走行条件は自在に制御して再現可能だが、気候や天候はそうはいかない。また、走行中の車両に生じる様々な現象を分離したり、詳細に計測し分析したりするのは困難である。そこで、評価対象とする性能や機能、システムに応じた台上実験に置換えた台上実験技術を構築する。そして、Vプロセスの左側で各性能ごとに現象メカニズムを分析し、各コンポーネントへの性能割り付けを行ったり、Vプロセスの右側でシステム・性能ごとの評価・達成度確認を行う。ここで重要なのは、目的に応じて何をどこまでどうやって再現するのかということであり、それを見極めるのが台上実験のエンジニアの腕の見せ所の1つである。例えば、車体やシャシーの耐久性を評価するために、走行時の路面からの入力や、駆動力・制動力による入力を台上で再現させるのがロードシミュレータである。ここでは4輪のタイヤに加わる前後左右上下の力、およびX,Y,Z各軸周りのモーメントを再現している。実走行時の入力をそのまま再現するのではなく、入力波形を細工して実際の走行よりも短期間で耐久評価が出来るように実験を加速しつつ、疲労被害度を市場モデルと等価となるように再現した。ただし、ここで評価対象としているのは主として金属材料で作られた構造体の疲労強度特集2:電動化に貢献する実験技術 - 1. 電動車両の競争力を支える実験技術とはなので、温度環境や光環境の再現は省いている。実車による走行試験あるいは車体全体を使った台上実験以外にも、特定のコンポーネントやシステムだけを抜き出して、実車相当の負荷を加えることで、車両状態では観察や計測が困難な現象メカニズムの解明が可能になる。また、実験の規模を小さくできるので、より多くの仕様を比較評価できたり、サンプル数を増やしてバラツキの評価が容易になるといったメリットもある。このようなシステム台上実験の構築にあたっては、いかにして車両状態を再現するか、という点が重要である。車両レベルから、システムレベル、さらに部品レベルへとブレークダウンしていくことにより、車両性能目標を各構成部品の要求スペックに落とし込むことが可能になる。逆に目標達成度を確認する段階では、まずは部品単品がスペックを満たしているか(これは通常は部品サプライヤが)評価し、次いでシステムレベル、最後に車両で評価するという手順で評価していくことで、目標達成できていない場合の原因究明と対策を容易に行い、確実に開発を進めていくことができる。上述したVプロセスの図ではVの字に沿って手戻り無く進むように描いてあるが、実際の開発においてV字の右側で評価した結果が想定通りに目標を達成できていない場合は、手戻りが発生する。すなわち、設計→試作→評価→設計やり直し→試作やり直し→評価やり直し… というフィードバックサイクルを回すことになる。しかしこのサイクルを回すということは相応の期間とコストを必要とする。そこで、実際にフィジカルな試作品を作る前に達成度の事前確認を行うというニーズが生じてくる。正規の試作車両の手配をするより前の段階をデジタルフェーズ、手配以降をフィジカルフェーズと呼んでいるが、デジタルフェーズのうちに試作車両の性能達成レベルをどう見通すかということが重要で、これによってフィジカルフェーズでの設計・試作・評価のやり直しを減らしていく取組みを行って342.3 システム/コンポーネント台上実験技術2.4 デジタルフェーズにおける実験技術

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