日産技報 No.89 (2023)
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図1 自動車の開発プロセス模式図(Vプロセス)*カスタマーパフォーマンス&第二車両実験部日産自動車の研究開発部門における実験部の役割は、世界中のお客さまの期待値や市場要件を満足するための車両やシステムの性能目標を設定すること、そして設計~試作を経た後に性能目標の達成度をモノで評価することである。その役割を果たすためにどのような実験を行うのか決めるのは実験部のエンジニアであり、その実験遂行に必要な設備、計測器を導入したり、評価・計測技術を開発したりするのも実験部のエンジニアが自ら行う。この特集では、日産自動車の実験技術について、特に昨今の地球温暖化の対応のひとつとして進めている車両の電動化に貢献する実験技術について紹介していく。図1は自動車の開発プロセスを単純化・概念化して示したもので、上から車両階層~部品階層を表しており、新車の開発は左上からスタートして右上で開発完了・発表発売となる。実験部の役割は、左上の「市場要件・お客さま理解」から「車両目標設定」までと、性能領域によっては「システム、コンポーネントへの性能割り付け、性能計画」まで実験部が関わることとなる。そして設計部署や部品サプライヤによる「部品設計」、「部品評価」を経て、「システム、コンポーネント評価」と「車両評価」が再び実験部の役割となる。目標設定のためには、世界中のお客さまによるクルマの使い方や走らせ方、その時の期待値、そして使用環境を把握する必要がある。国や地域によって独特の使い方があるし、お客さまの期待値も人それぞれである。使用環境には、道路状況や交通環境だけでなく、気温・湿度・日射量などの気候条件や、標高(空気密度)、電波環境など多岐にわたり、その組み合わせは膨大である。これらの無限の組み合わせの中から、それぞれの性能や部品・システムに対して目標を設定するためには、市場モデルを作成し、リアルワールドを代表するシーンを抽出していく。リアルワールドの市場要件を把握するための古典的手段としては市場調査を行う。お客さまを観察したりインタビューしたり、車両や周辺環境のデータを計測したり、それらのデータを分析したり、そういう技術やノウハウが必要となる。また近年ではビッグデータを統計的に解析して市場要件を把握することもできるようになっており、大量のデータを収集・分析する技術も実験技術として必要となってきている。車両を用いた実験により性能目標を設定したり、車両性能の達成度評価を行うためには、現行モデルや競合他社車と比較評価し、各性能の良し悪しを表す代用特性を計測していく。実際のお客さまと同様に一般公道で比較試乗して評価することもあるが、公道評価では周囲の交通環境を制御できないため実験の再現性を担保するのが非常に困難である。そこでProving Ground (PG)と呼ばれるクローズドのテストコースを造って、車両を走らせる。自社のPGであれば、どのようなPGにするのか検討して構想を練り、専門の設計会社や施工会社と共同でPGを作り上げるのも実験部のエンジニアの業務といえる。332.1 市場要件・お客さま理解のための実験技術2.2 車両実験技術特集2:電動化に貢献する実験技術田中 耕一郎*1. はじめに2. さまざまな実験技術1. 電動車両の競争力を支える実験技術とは

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