日産技報 No.89 (2023)
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図2 パワートレインの構成比較図1 新型エクストレイル*パワートレイン・EV性能開発部日産自動車は、100%エンジンで発電し、100%モーターで走行する電動パワートレインシステム「e-POWER」及び前後に2機のモーターを搭載した電動AWD(All Wheel Drive)システムを、本格SUVである新型日産エクストレイル(図1)に採用する。また、2019 Tokyo Motor Show 「アリアコンセプト」 で公開した、新たな電動AWD制御技術である 「e-4ORCE」 をこれに組み合わせて適用する。本章では、日産自動車初の電動パワートレインを搭載した本格SUVである、新型日産エクストレイルの、e-4ORCE技術、並びにAWD性能について解説する。前型エクストレイルに搭載していた、内燃機関パワートレイン搭載のAWDシステムは、内燃機関が発生する動力を連結されたプロペラシャフトを通して機械的に前後輪へ配分することによって実現されている(図2左)。そのため、動力伝達の機械的遅れや、配分の分解能に機械的な限界がある。また、内燃機関は電動モーターのように高応答で出力を制御することが困難であるため、0.1秒オーダーで総駆動力を制御することは難しい。一方、電動パワートレインである、「e-4ORCE」の基本構成は、前後に独立した電動モーターを搭載するため(図2右)高い応答性で正確な前後駆動力配分が可能となる。「e-4ORCE」制御思想の一つは、4つのタイヤが受け持つ駆動力を路面に伝える能力を100%引き出し、どのような走行シーンにおいても車の動きを安定させることである。車は4つの車輪で車体を支えているが、各車輪に掛かる荷重は、路面や車両状態により、常に変化している。輪荷重に伴って各タイヤが駆動力を路面に伝えられる能力(=タイヤグリップ力)(図3)の限界も変化するが、これをバランスよく全てのタイヤが限界内で余裕を持つようにコントロールすることで、安定した走行が実現できる。新型エクストレイルのe-4ORCE制御では、路面状況や走行状況に応じて、変化する輪荷重に応じたタイヤのグリップ能力が最適になるよう駆動力を前後輪に配分している。さらに状況に合わせ左右ブレーキをコントロールし、減速時以外にもブレーキ力を組み合わせ、走行性能を高めている。21特集1:「タフギア」×「上質」 新型エクストレイル片倉 丈嗣*  鈴木 良太*1. はじめに2. e-4ORCEの概要4. 本格SUVへのe-4ORCE適用

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