日産技報 No.89 (2023)
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図8 圧縮比違いによる最大出力回転数図7 エンジン燃費効率とエンジン動作頻度図9 上下方向ピストン系、慣性力の比較3.2 最大出力点と静粛性について3.3 3気筒VCターボのエンジン音質続いて、静粛性について説明する。これまでのe-POWERの定点発電点は、エネルギマネージメントとのバランスから約2350rpmとしていたが、大幅なトルクアップによるエンジン運転点の選択肢を増やしたことで、エンジン最良燃費点運転でのエネルギマネージメントを可能とした。特に、この定点発電点の回転数変更(2350→2000rpm)は静粛性向上に大きく寄与しており、エンジン騒音を約2dBA低減することができる。結果として走行中のエンジン気配を消すことに寄与し、EV-nessをお客様へ提供することが可能となった。以上のとおり、エネルギマネージメント要求を満足させながら高効率と静粛性を達成したことで、WLTC+Exh Highモードの80%を超える運転時間を最良燃費点で運転することが可能となった (図7)。一般的なエンジンのC/Rは、燃費要求と出力要求のバランスを考慮した設計が必要になる。一方でVCR機構によりC/Rを自由に選定(C/R=8.0~14.0)することが可能なVCターボエンジンは、最大出力点専用の性能設計が可能であり、C/R=8.0を選択した。結果、最大出力点は4400rpmで106kWを達成した(国内向け)。このC/R設定とエンジン音について、一般的なエンジンと比較する。比較のためのエンジンはC/R=10.5と仮定する。C/R=10.5では、 異常燃焼であるノッキングを回避するため最大出力点が5600rpmになるのに対して、前述したようにVCターボでは最大出力点を4400rpmに設定することができる。エンジン回転数を1200rpm低く設定できるため、 高車速の連続走行など高負荷状態が連続するシーンにおいてエンジン騒音を約3.5dBA低減している。特集1:「タフギア」×「上質」 新型エクストレイル - 3. e-POWER用エンジンの進化前述のとおり、最大出力点におけるエンジンの音圧レベルは大幅に低減されているが、運転者に対して完全にエンジン音の遮断はできない。そのため、聴こえてくるエンジン音についてVCターボエンジンでは通常の3気筒エンジンとは異なる気持ちの良いサウンドの作り込みを行っている(3)。通常の3気筒エンジンではトルク変動によるエンジン回転1.5次が主成分になるため、低周波数域のこもった音色になる。対して、VCターボエンジンではMulti-link機構特有の上昇工程と下降行程が異なるピストンモーション(図9)によって、ピストンの上下慣性加振力に高次成分を有するといった特徴を持っている。各気筒のピンストン上下慣性力の波形と各クランクアングルにおける合力のグラフを図9に示す。19

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