図1 新型KR15DDTエンジン図2 e-POWERのエンジン運転領域*パワートレイン・EVプロジェクトマネージメント部 **パワートレイン・EV機構システム技術開発部 ***パワートレイン・EV性能適合開発部新型エクストレイルe-POWER搭載に向け、e-POWERの魅力である力強い加速と静粛性、低燃費性能を高い次元で達成するため、2018年 日産自動車が世界で初めて量産エンジンに採用した可変圧縮比(VCR)機構と、新たにLow Pressure Cooled EGR(以下、LP-EGR)を組み合わせた1.5Lターボエンジンをe-POWER用に開発した。本章では新型エクストレイル搭載の新型KR15DDTエンジンの概要と主要技術について紹介する。新型エクストレイルの狙いの「タフギア」×「上質」を実現するため、従来のe-POWERに搭載していた1.2L 3気筒 自然吸気エンジンに対して、発電エネルギ向上のため大幅な出力アップ、高い静粛性、高効率なエンジンを目指した。100% モーター駆動は、高い静粛性とスムーズな加速性能(EV-ness)が魅力となる。これらを更に磨くために、エンジンは以下を狙って開発した。① 定点発電点での高い熱効率② 最大出力点での高出力③ 高い静粛性④ コンパクトなエンジン 図2はe-POWERにおけるエンジン運転領域と、ポイントとなる性能のコンセプトを示している。日産自動車は既にVCR機構の量産に成功しており、その機構を採用することで、①の点では高圧縮比、②の点では低圧縮比に切り替えがおこなえ、LP-EGRと組み合わせることで高効率、高出力の両立が可能となる。(1)また、VCR機構を構成するMulti-linkシステムの特徴の一つとして、ピストンのスラスト方向フリクションを減らすことができる。高圧縮比設定による熱効率向上と組み合わせることで、最良燃費点のエンジン低回転化ができる。加えて低圧縮比設定での最大出力点の回転数を下げることができ、③の静粛性要求を満たすことが可能となる。④に関しては3気筒エンジン選定に加え、更なるコンパクト化を目指し可変動弁(VTC)の簡素化を狙った。従来のHEV用エンジンではエンジン始動時の振動対策として、ピストン圧縮反力の低減を実施してきたが、VCR機構を活用することで、吸気VTCなしでも圧縮反力の低減をおこなえ、当該の性能を満たすことができる。またe-POWER特有のエンジン運転領域の絞り込みに加え、可変圧縮、及び LP-EGRを性能設計することによって、VTCに頼ることなく、高効率、高出力、排気性能を高い次元で達成することができる。172.1 エンジン開発の狙い特集1:「タフギア」×「上質」 新型エクストレイル荻野 和宏* 土屋 順久* 水野 秀昭** 坂井 雄紀** 阿部 泰英***1. はじめに3. e-POWER用エンジンの進化
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