終わりなき旅

目の前に続く、ただひたすらに長い道。長い長いこの道を、くる日もくる日も走り続けているクルマがある。24時間不眠不休で走っても、目的地はいっこうに見えてきそうにないのだが……。

まさに四六時中。耐久性テストを行う「ロードシミュレーター」は、昼夜問わず、休むことなく動き続けている。クルマに、まるで道路を走っているかのごとく負荷を与えるこの設備は、車両やサスペンションの耐久性を台上でテストできる実験装置。何万km、何十万kmもの実走行を台上でシミュレーションし、様々な状況の路面からタイヤを通じて受ける衝撃やパーツの経年劣化を調査することで、長年壊れることなく走り続けるクルマ作りに活かしている。日産では「過酷な路面状況であっても、タイヤを通じて受ける衝撃でクルマの部品が壊れることがあってはならない」ことを、品質基準と考えているのだ。

従来の耐久性テストでは、テストドライバーがコースをグルグルグルグル、何十万kmも実際に走ることでしか検証し得なかったが、今や台上実験で行えるようになった。6軸・4軸・1軸方向から負荷をかけられる数種類のロードシミュレーターで、世界中のあらゆる路面状況を再現。フロントだけ・サスペンションだけといった部品にフォーカスした実験や、タイヤを付けた市販車に近い状態での実験など、バリエーション豊かな台上実験で、車体バランスの維持状況なども検証する。のべ何十万キロもの走行実験によって、どんなクルマも、発売時には安全性と耐久性が実証されている。

台上実験のワンシーン。4軸のロードシミュレーターを使用し、台上実験を実施中

ロードシミュレーターは、栃木&追浜にあるテストコースで実車走行したデータを取り込み、世界中のあらゆる道路環境を再現できる。各国の市場を調査した上で、もっとも過酷な条件の道を再現した道路を、24時間ぶっ続けで走り続けられるのは、台上実験ならではだ。日産には、各国・各地域におけるクルマの使われ方を調査し、最も過酷な環境を基準にした「信頼性保証基準マップ」がある。ロードシミュレーターを使った実験は、この信頼性保証基準マップに基づいて実施されている。台上実験の導入により、信頼性保証基準マップ自体の精度も高まっている。つまり、日産車の耐久性品質はどんどんレベルアップしていると言えるのだ。

台上実験のメリットは、テストドライバーが腰痛に悩まされることはなくなったことだけではない。それは、お客様に対して、より信頼性が高い車両を提供できるようになったこと。
台上実験は、同時に複数のデータを計測するのが困難だった実車走行テストに比べ、正確に複数のデータを採取できる。いろんなデータを採取しデータを「見える化」できるようになったのだ。
このデータが、実験による故障や不具合の原因をピンポイントで解析可能にする。例えば、ボディの溶接部分が外れた場合、「ねじ曲がって外れた」のか「周辺の部品が振動して外れた」のか、原因をデータから判断できる。不具合と原因をセットで設計チームにフィードバックしてこそ、改善策が見えてくる。台上実験の導入や、データや経験の蓄積からフィードバックの精度が高まり、エンジニアがクルマに施す対策の「一発オッケー率」が高まっているのは、台上実験を担当する車体シャシー台上耐久技術開発チームの自慢である。

メンバーたちに求められるスキルは、実車で計測した各種データに基づき、台上実験での車両の動きをお客様の実際の使い方に即して再現すること。メンバーたちはこの長旅のコーディネーター役を担い、実験の再現性を高めるべく力を費やしている。例えば、台上実験では実走行のように走行中に風が当らず、サスペンションが冷却されにくい。すると、通常よりもサスペンションへの負荷が高くなり壊れやすくなる。部品が壊れたままの状態で実験を続ければ、通常とは異なる入力が生まれ、正確な数値を読み取れない。日産のエンジニアが、的確な状況判断を行って実験環境の再現に取り組んでいるのはこのためだ。

日産車に求められる耐久性は、お客様が何年も使用しそのクルマを手放すときまで「何も起きない」という品質。俗に「当たり前性能」と言われる品質を追求するメンバーたちの実験は、ゴールがない。台上実験は、終わりなき旅である。しかも、この台上実験は、耐久性試験における通過点の1つに過ぎない。
さらには、発売前には、実際の市場での走行試験も十分行っている。耐久性テストが終わり生産に漕ぎ付け、お客様の元に届いてからが真の旅の始まりなのだ。日産車の旅は、まだまだ続く。

台上実験中、実験結果をリアルタイムに表示するモニターを見つめるのは、Body and Chassis Reliability Test Groupのメンバー田畑・酒井