未来へのスイッチ

「もうひとつの品質物語」未来へのスイッチ 3:11

日産車は進化する。走行性能や燃費性能、エンジンやブレーキといった主要なパーツはもちろん、普段何気なく使っているスイッチやダイヤルも進化を続けている。

日産車のスイッチやダイヤルを研究し、進化させているのが人間工学チーム。進化し続けるクルマの性能に対して、運転中にドライバーが触れるすべてのパーツの安全性や操作性、認知性を高めることが彼らのミッションだ。彼らの研究には、走行中の車内で行う実証実験が欠かせない。しかし、実際に走りながらの実験は安全面で難しい。特にドライバーが高齢者や初心者の場合はなおさら困難である。

そこで活躍するのが「ドライビングシミュレーター」だ。前後に設置した巨大なスクリーンに走行状況に合わせたCG映像が流れ、ドライバーは、まるで実際の道路を走っているような錯覚に陥る。ドライバーがシミュレーターに違和感を感じて普段と異なる行動をしては実験にならないが、試しに、このドライビングシミュレーターに乗り込んだドライバーに、画面上で隣の車線を走るクルマに「衝突してみて下さい」と指示すると「怖いからできません」と答えるそうだ。この恐怖心が、実際の走行環境を再現できている証拠である。このドライビングシミュレーターの再現性の高さの秘密は、立体的に見える超大型のスクリーンの映像の工夫と、ドライバーにかかるGを巧みに演出している点にある。人間の感覚を巧みに利用することで、実車同様の走行を演出しているのだ。わずか3cmほどのスイッチやダイヤルの大きさやレイアウトを決めるために、これほどまでに大掛かりな実験設備が必要なのだ。

高速道路での走行を再現できる、巨大なドライビングシミュレーター。実車を使用したこの設備は、ハンドルやアクセルなどと連動して、前後の巨大なスクリーンにCGの風景が映し出される。

ドライビングシミュレーターを用いた実験では、車内にミリ単位でサイズが異なるスイッチやメーター、カーナビなどの試作品を搭載し、それぞれを走行中に使用するドライバーの視線の動きや脳波などを記録。この実験結果を基に、最適なスイッチの個数やダイヤルのサイズのガイドラインを人間工学チームが設定し、設計部署にフィードバックする。ドライビングシミュレーターでは、ドライバーが運転中に操作や確認する装置や計器類を実証実験の対象としている。スイッチやメーター、カーナビの他にも、ステアリング、エアコン、オーディオといった機器類もその対象だ。また、この実証実験を行う際には、年齢、性別、運転経験、国籍が様々に異なる人々に参加してもらう。これは、年齢や運転経験に関わらず、誰もが使いやすいユニバーサルなスイッチを研究するためだ。

ドライビングシミュレーターから生まれたインターフェースの一例が「クルクルポン」で使えるカンタン操作のカーナビシステム。8つのボタンから使いたい項目を選択し、ダイヤルを「クルクル」回して、タッチパネルを「ポンポン」と操作する。

ドラインビングシミュレーターを使い、人間工学によって進化したスイッチの一例が、大きなダイヤルとボタンにタッチパネルモニターを組み合わせたカーナビシステムだ。ドライバーは、8つのボタンから使いたい項目を選択し、中央のダイヤルを「クルクル」回して、タッチパネルを「ポンポン」押して操作する。走行中でも、また、説明書を読まなくても「クルクルポン」と直感で使えるのが、このカーナビのセールスポイントだ。さらに、この操作はハンドルのスイッチでもできるようになっている。タッチパネルとこれらのスイッチを組み合わせることで直感的で安全なインターフェースを実現している。

ドライビングシミュレーターを駆使する、日産の人間工学の第一人者が、同チームを率いる美記陽之介。クルマのインターフェース開発の特徴を「飛行機や船舶など、世の中にあるさまざまなモビリティーの中でも、クルマのインターフェース開発が難しいのは、不特定多数の人々が日常的に使うものだから」と語る。飛行機のように訓練されたパイロットだけが操縦するのではなく、クルマを運転しスイッチを押すのは、あくまでも普通の人々。だからこそ、誰もが安全かつ容易に使えるユニバーサルなスイッチであることが求められる。日産車は、小さなスイッチもまた、未来に向かって確実に進化しているのだ。

ドライバーが運転中に操作する装置を実証実験の対象とするドライビングシミュレーターでは、ステアリングに配されたスイッチ類もまた、その中の1つ。人間工学に基づいた設計となっている。