コントロールするのは誰だ

常にお客さまの安全を第一に考えている日産は、時には空から学ぶこともある。
ブレーキ・オーバーライド・システムに、そんな日産の設計思想を垣間見ることができる。

安全は全てに勝る。その考えに異論はない。しかし、クルマはモノを運ぶだけの単なる道具ではないのも事実。そこには操る楽しみ、乗る喜びがあって然るべきだ。そんなワクワクする思いを忘れない日産ならではの、開発に関するエピソードをご紹介しよう。

ある朝、村上裕一(トータルカスタマーサティスファクション本部エキスパートリーダー)は興味深い新聞記事を目にした。それは数年前に起きた、旅客機のトラブルに関する調査報告書だった。村上は記事を読み、ハッとした。このトラブルは自動操縦中にパイロットが手動で機首を操作しようとしたが叶わず、起きていたのだ。つまり、人間指令優先のシステムが組み込まれていたら、旅客機はトラブルを起こさなかったのでは? いま、我々が取り組んでいるアクセルの電子制御化も、やはり最終的には人間の意志が尊重されるシステムを採用すべき。そう村上は確信したのである。

アクセルとブレーキの両ペダルを同時に踏んだ場合、電子制御式スロットルが入っている現行の日産車*は安全を考慮し、ブレーキが勝るよう設計されている。

このような設計思想から、日産が他の日本車メーカーに先駆けて採用したのがブレーキ・オーバーライド・システムである。このシステムは電子制御のアクセルペダルとブレーキペダルが両方とも踏まれた場合、エンジン出力を絞ってブレーキの制動力を優先させるというもの。アクセルとブレーキを両方とも踏む? そんな状況、そうそうないと多くの方が思われるだろう。確かに、通常のドライブ時はまずありえない。しかし、何かがアクセルペダルに引っかかって、またはシステムが故障してアクセルが踏みっ放しの状態になるというのも、あり得ない話ではない。どんなときでも安全に止まれる仕組みが必要との考えから、現在は電子制御式スロットルが入っている全ての日産車※にブレーキ・オーバーライド・システムが採用されている。

もちろん、日産はブレーキ・オーバーライド・システムにベテランドライバーの要求にも応えられるチューニングを施すことを忘れなかった。よってアクセルとブレーキが両方とも踏まれた場合でも、安全を十分に確保した上で、一瞬、ドライバーの操作が優先される仕組みになっているのだ。このお客さまの使い勝手を考えた配慮が、いかにも日産らしい。

コンピューターが機械を制御し始めると、人間は何でも自動でやってくれる、何もしなくても安全でしょ・・・と解釈しがちだ。これは思考停止、システム過信の状態で、こうなってはいけない。どこまでがシステムの領域、どこから先が人間の判断に委ねるか、クルマを作ったメーカーは、その設計思想をお客さまに正確に伝える義務がある。安全を担保しながら高度化に対応。これが今後の研究の課題だが、日産は常にお客さまの安全、使い勝手を最優先に考えるという姿勢に変わりはない。

村上は、日産車というよりもクルマ全体の安全性を向上させたいとも語った。そう、彼の視線はずっと先にあったのだ。

  • OEMを除く。