COOメッセージ

日産自動車株式会社
取締役、代表執行役最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサー
アシュワニ グプタ

日産自動車は現在、変革の時期にあります。2019年12月に私は日産自動車の最高執行責任者(COO)に任命されました。COOとして私は、当社が持続可能かつ収益性を伴う成長に戻るために、この変革に向けた取り組みの計画策定及び実行が成功裏に行われることを監督し確実なものにする責務を負っています。

当社が2011年に発表した中期経営計画「Nissan Power 88」は、高い販売台数目標、グローバルな自動車需要の高まり、および新興市場を中心とした更なる生産能力の必要性への期待が見通しのベースになっており、当社は積極的な拡大戦略を追求しました。当社はこの計画の実行のために多額の投資を行いましたが、グローバルな経済環境の変化によって、想定していたような展開はできず、結果として行った投資を最大限に活かすことができませんでした。さらに、これらのグローバル且つ大規模な投資を行うために、主要市場での新商品投入を抑制せざるをえませんでした。2年近く前に、この拡大戦略からの転換を図った時には、当社の生産能力は年間720万台であるのに対し販売台数は500万台程度で、固定費の負担が重くなっており、このような状況で事業を継続して利益を上げることは困難になっていました。

この苦境を乗り越えるため、当社は過去の課題を洗い出し、進路を変更しました。このような意識に加え、経済の不確実性に対する理解を深め、当社は事業構造改革計画「Nissan NEXT」を策定しました。Nissan NEXTは、効率と収益性の改善を目的とした、コアとなる競争力のある商品・技術・将来の成長に向けての種まき・市場の選択と集中を通じた、事業の合理化です。これらは厳しい意思決定を伴いますが、妥協や躊躇することなく実行することが不可欠です。

事業構造改革計画は主に以下の点にフォーカスしています。

  • 量から質への企業文化の転換を図り、収益性を伴う着実な成長を確かなものにする
  • コアコンピテンシーに集中し、事業の質を高める
  • 財務規律を維持し、台当たり売上高と収益性にフォーカスする
  • 新時代に持続的な成長を遂げるため、「日産らしさ」に基づく企業文化を復活させる

これらに注力することにより、2023年度末までに次の10年を戦うための強固な事業基盤を築き、持続的な成長を実現するため、将来に向けての種まきを行います。これは私たちのミッションです。

これを達成するために、当社は二つの分野に注力します。まず第一に、事業の合理化を進めます。十分なリターンを見込めない事業の再編を行い、余剰な生産能力を削減します。先述したように、当社は前の中期経営計画であるNissan Power 88の結果として720万台の生産能力を保有するに至り、これが当社にとっての課題となっています。当社は、2023年度のグローバル全体需要は、2018年度並みの9千万台程度と予想しています。つまり、今後全体需要が伸びるといったアグレッシブな推測はしていません。また販売台数の見通しについては、台数の最大化のみを追求するのではなく、販売パフォーマンスを独自の方法で判断することを選び、そのためにグローバルの生産能力を通常のオペレーションのベースで540万台まで調整することを決定しました。この生産能力の調整と同時に、働き方の改革や柔軟な生産を可能にするインテリジェントファクトリーへの投資を行います。当社は、原材料やその他のコストの削減等によって、変化するビジネスニーズに対応してまいります。

また、当社は、お客さまのニーズ、マーケットプレゼンス、収益性に基づき、グローバルな商品ラインナップの合理化と優先付けを行います。2023年度末までに、経年化した商品や単一市場に特化したモデルを段階的に終了していきます。当社のグローバルポートフォリオのモデル数を、69から55未満に減らし、2018年度比で約20%の削減を行います。C/Dセグメント、電気自動車及びスポーツカーといった、より収益性が高く、お客さまにグローバルにアピールできるコアモデルセグメントに集中します。これによって、平均車齢を現在の5年超から、4年以下に引き下げることを目指しています。また当社はこれらのセグメントに先進技術を導入することで、価値や競争力が高い商品を開発します。重点セグメント外の商品については、アライアンスパートナーであるルノー及び三菱自動車の商品や技術を含むアセットの活用で協業を進めます。

これらの取り組みにより、固定費及びその他の費用を15%削減します。固定費については3,000億円の削減をおこない、そのコストベースを今後も維持することを目指します。余剰な生産能力や商品を削減する一方で、着実な成長を確実なものにするための重点分野への積極的な投資を継続します。

第二には、選択と集中です。コア領域において、確かなリカバリーと着実な成長のために、効果的に投資を行います。この取り組みをサポートするために必要不可欠なのは、品質、お客さまのニーズ、サプライヤー及びディーラーとの関係強化に重点を置くことです。マーケット、商品、技術の領域においてそれぞれ選択と集中を進めます。

当社は、コアマーケットである日本、中国、北米(メキシコを含む)に注力し、経営資源を集中して健全なオペレーションを確立します。日本は当社のホームマーケットであることから、当社の新技術やイノベーションがこのマーケットに受け入れられているということを証明しなければなりません。非常に強力な電動車ラインナップを中心とした新車を毎年投入し、電気自動車と自動運転におけるリーダーシップを維持したいと考えています。中国においては、当社は非常に強いプレゼンスがあり、年々成長しています。需要は、初めて車を購入するお客さまから買い替えに明らかにシフトしており、当社はシルフィやエクストレイルといったコアモデルに加え高級車にも注力してまいります。また、中国のお客さまはパワートレインやコネクティビティにおいて、ますます高い技術を求めています。そのため、当社はマーケットのニーズに対応し、中国市場へのe-POWERやエンドツーエンドのコネクティビティの投入を決定しました。最後に米国では、ボリュームからバリューへのマインドセットの転換を中心とした事業構造改革を進めており、上期は順調に進展しました。マーケットシェアは前年に対し減少したものの、販売奨励金は抑制できており、その結果台当たり売上高は増加しました。これは米国で取り組み始めた収益性を伴う販売の質の向上を明確に示しています。

南米、ASEAN及び欧州については、アライアンスのアセットを有効活用しながら、これらのマーケットの成長にあわせて適切な規模で事業を展開します。これらの地域や中東においては、当社が成長するポテンシャルがある市場に経営資源を集中します。当社は既に、オポチュニティが限定的な韓国から撤退した他、一部のASEANの国で事業規模を縮小しました。また、当社は効率性向上のために、新たなビジネスフットプリントに合わせた地域毎の経営管理体制の変更を行いました。一例として、事業構造改革計画における北米地域の重要性に鑑み、1名の独立社外アドバイザーを含む5名のメンバーで構成される北米地域の取締役会を新設し、私はその議長として直接この地域を監督します。

Nissan NEXTの計画を進めるにあたり、当社は経営資源をコアモデルに集中してきました。まず、18か月で12以上の最新技術を搭載した新型車(インフィニティを含む)を市場に投入します。昨年の秋に当社は米国で、同国におけるベストセラーモデルである「ローグ」の新型車の販売を開始しました。

当社は持続可能なモビリティを強く信じており、ゼロエミッション、ゼロフェイタリティの世界の実現への貢献に努めています。当社の目的は、電動化、自動運転、コネクテッドの戦略を含む広範な研究開発及びアドバンスドエンジニアリングの取り組みを通じて、地球を救い、人々を救い、モビリティ体験を豊かなものにすることです。昨年の7月に、当社は新型クロスオーバー「日産アリア」を発表しましたが、これは電気自動車を超える車です。「日産アリア」には最先端のスタイリング、プロパイロット2.0を含むハイテクコンテンツ、パワートレインの選択肢などが備わっています。「日産アリア」がブランド価値向上のドライバー、そして新時代の日産の新たな顔として重要な役割を果たすことを期待しています。

「日産アリア」の技術のハイライトは、電動化と先進運転支援技術の融合であり、これは将来の自動運転につながるものです。2010年に世界で初の量産100%電気自動車として発売した「日産リーフ」は、累計販売台数が50万台を超えました。2023年度末までには8車種以上の100%電気自動車、つまりCO2排出ゼロの車を市場に投入する計画です。

電動化戦略のもう一つの柱はe-POWERです。最近まで主に日本で販売されていたe-POWERの累計販売台数は39万台を超えました。当社は昨年、e-POWERを搭載した「日産キックス」を日本、タイ、インドネシアで発売しました。そして昨年12月には、日本でコンパクトカーの新型「ノート」の販売も開始しました。新型「ノート」はe-POWER電動パワートレイン専用モデルであり、ホームマーケットである日本でのベストセラーモデルとして事業構造改革計画「Nissan NEXT」において引き続き重要な役割を果たします。また、当社は欧州と中国においてもe-POWER搭載車の投入を計画しています。

当社は2023年度末までに、電気自動車とe-POWER搭載車を含む100万台以上の電動車を毎年世界中のお客さまに提供する見込みです。パワートレインの電動化を進めることによって、車の進化を促進し、お客さまに運転によるワクワクと喜びをお届けしたいと考えています。

当社は、実用性や商品への応用の観点から、自動運転にもコミットしています。日本で販売されている「スカイライン」には、高速道路でのナビゲーションシステムと連動して設定したルートを走行する機能とハンズオフ機能を組み合わせた世界初の先進運転支援技術プロパイロット2.0が搭載されています。2020年3月末現在、当社が販売したプロパイロット及び運転支援機能が搭載された車は累計66万台以上に上ります。2023年度末までに当社は自動運転技術を20の市場で20を超える商品に搭載する計画であり、同年度末までにプロパイロット搭載車の年間販売台数は150万台を超えると見込んでいます。世界の市場で蓄積したノウハウは、将来の自動運転技術の開発の一助となります。

新型コロナウィルスの感染拡大は世界中の人々に影響を及ぼし、私たちはそれまでの生活を変えることを余儀なくされました。昨年12月に当社は、お客さまが希望される場合は自宅を離れることなく当社の販売会社から自動車を購入することができる完全オンライン販売プログラム「Nissan@Home」を導入しました。新型コロナウィルス感染拡大の影響によって、当社が存在する意義は、モビリティを通じて人々の生活を豊かにするためにイノベーションをドライブし続け、社会に活力をもたらすことであると再認識しました。これから10年のキードライバーとなるのは、当社が市場を牽引してきた電気自動車と、運転支援技術です。新技術によって社会に活力をもたらすには、これまでにない取り組みを行っていく必要があります。例えば、2018年5月に当社は日本電動化アクション 「ブルースイッチ」を開始しました。これは防災、エネルギー管理、気候変動、観光、人口減少等への対処法の一つとして電気自動車の活用を促進するプログラムです。令和元年房総半島台風が日本を襲い停電が起きた直後に、当社は電力供給の支援のために数十台の電気自動車「日産リーフ」を派遣しました。また、横浜市においては、自動運転技術に基づく新たなモビリティの領域での取り組みとして、無人運転車両を活用した配車サービス「イージーライド」の実証実験を3年にわたって実施しています。電気自動車、自動運転、コネクテッド、シェアリングの融合によって、全ての人がモビリティの自由を享受できる社会を作ることができると信じています。

当社は、事業構造改革計画「Nissan NEXT」で示した全ての取り組みを実行することによって、2023年度末までに現実的かつ収益性を伴うマーケットシェアの実現を目指しています。さらに2021年度後半には健全なレベルのフリーキャッシュフロー創出と自動車事業ネットキャッシュを回復することを目指します。当社は昨年11月、2020年度上期決算を発表しましたが、Nissan NEXTで掲げる計画を包括的に進められていると考えています。上期の結果には、販売の質の改善や在庫及び固定費の削減が表れていました。第2四半期は、第1四半期と比べ自動車事業のフリーキャッシュフローは大幅に改善し、収益性も上昇しました。さらに、当社のグローバル販売台数の第1四半期から第2四半期の増加率は、全体需要の増加率を上回りました。コロナ禍の中、当社は従業員の安全を最優先しつつ、必要な変更を講じ手元資金の保全を図りながら、事業の立て直しは進んでいます。

しかしながら、当社が直面する課題の大きさや2020年度の自動車市況が不透明であることは十分に認識しています。Nissan NEXTを通し、当社は固定費削減や収益性の改善に継続的に取り組み、同時に販売の質を向上させると同時に、十分な流動性を維持します。Nissan NEXTの鍵は、私たちが情熱を持ち、革新的であり、挑戦することです。将来に向けての種をまき、妥協することなく必要なアクションをとり、次の10年間を戦えるための強固な事業基盤を築きます。当社が業績改善に向け順調に歩みを進めていること、そして着実に事業構造改革に取り組んでいることをご理解いただけますと幸いです。

今後ともご支援の程、よろしくお願い申し上げます。

2021年2月

アシュワニ グプタ
日産自動車株式会社 
取締役、代表執行役最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサー