スピーチ


2011年5月12日

2010年度決算報告

日産自動車株式会社
取締役社長兼CEO カルロス ゴーン

2010年度、日産は過去最高の販売台数と成長を実現しました。金融危機から完全に立ち直り、当社は再び果敢に難局に挑み、戦略的な取り組みの手を緩めることなく、差し迫った課題を解決してきました。

しかしながら、3月11日に日本を直撃した大震災を受け、日産をはじめとする国内の自動車産業は再び回復に向けたリカバリー体制で臨んでいます。

多くの被災地の方々と同様に、日産も従業員を亡くしました。グループ内で5名が亡くなりました。亡くなられた方々に哀悼の意を表し、ご遺族の方々に心からお悔やみを申し上げたいと思います。

これまでと同様、日産は危機に立ち向かい、乗り越え、その実力を証明しました。当社は健全なバランスシートと経験豊かなマネージメント、そして確かな土台を足場に、成長軌道に戻りつつあります。

本日は、2010年度通期の財務実績と震災後の復旧活動についてご報告いたします。

2010年度通期の連結売上高は8兆7,731億円、連結営業利益は5,375億円、そして当期純利益は3,192億円となりました。また、自動車事業のフリーキャッシュフローは4,593億円となる一方、自動車事業実質有利子負債を完済し、年度末には2,933億円のキャッシュポジションとなりました。

2010年度事業報告
2010年度、日産は当座の問題に対処するために会社の長期的な重点課題を犠牲にすることはありませんでした。その主な重点活動の内の二つ、手頃な価格のゼロ・エミッション車の発売と、中国における継続的な拡大についてお話ししましょう。

2010年度は手頃な価格のゼロ・エミッション車の第一号である日産リーフを投入するというコミットメントを果たしました。長年に亘る研究・開発期間を経て、米国・日本・欧州で手頃な価格の電気自動車第一弾を発売しました。お陰さまでお客さまや環境団体をはじめとする多くの方々から好評を得ております。日産リーフは、2011年欧州カー・オブ・ザ・イヤー、そして直近では2011年ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー等、数多くの賞に輝きました。これも、持続可能なモビリティをご提供するという日産のビジョンが認められた証です。

日産リーフは様々な面でお客さまや環境に役立つクルマですが、特に二つの点に絞ってお話ししたいと思います。

まず、当社が他社に先駆けて手頃な価格の量販電気自動車を発売し、トップランナーであるということは競争優位性につながります。現在、5千台以上の日産リーフが街中を走っており、一から作り上げた100%の電気自動車としては最も台数の多いモデルとなっています。事実、これまでに他社が発売した電気自動車専用モデルの倍以上の台数を誇っています。この優位性を活かし、当社はゼロ・エミッション車のデータとお客さまの反響を蓄積しています。他社が独自の量販電気自動車を投入する頃には、日産は何年分もの経験を積み、継続的な革新を図っていることになります。この他社との差を、今後も維持していきます。

次に、日産リーフは決定的なブランド優位性を持っています。日産リーフとそれに続く日産とルノーの電気自動車ラインアップは、少なくとも2016年まで、限定的な競争環境で販売されます。販売台数増に加え、日産リーフは日産の技術力と環境へのコミットメントを体現するブランドとして、企業ブランドに大きく貢献するでしょう。米国だけで、34万5千人以上が日産リーフのウェブサイトに会員登録を行い、2万人以上から予約申し込みをいただいております。日産リーフはいわば、磁石のように既存のお客さまと共に新規のお客さまを日産ブランドに引きつけているのです。

ルノー・日産アライアンス全体で、2014年までに8車種の電気自動車を投入する予定です。バッテリー技術と生産能力への投資を通じて、ルノー、日産両社の競争優位性を更に伸ばしていきます。2010年度には英国サンダーランド、米国テネシー州スマーナ、そしてポルトガルのカシアで、バッテリー工場の建設に着手しました。2015年までに当アライアンスは、グローバルで50万基のバッテリー生産能力を確保します。ゼロ・エミッション領域のリーダーとして、ルノー・日産アライアンスは、成熟市場と新興国で他社を凌ぐ立場を確立しています。例えば、中国では、環境、法規制、そして消費者のニーズが、電気自動車のシェアを劇的に押し上げることが予想されます。

中国における成長は、2010年度のもう一つの重点活動です。私どもはパートナーである東風(とんぷう)汽車と協力し、8年前から大規模な投資を中国で行ってきました。その結果、日産は急速に成長しています。2003年の中国における当社の販売台数は僅か94,000台でした。それが今や年間販売台数は100万台を超え、当社のグローバル販売台数の4分の1近くを占める、日産にとって最大の市場となりました。

中国では中流層の増加に伴い、益々多くのお客さまがクルマを買い求めるようになっています。私どもは、需要の拡大に対応するべく準備を進めています。北京にデザインスタジオを新設し、2012年には2010年初頭のほぼ2倍に匹敵する120万台の生産能力を目指して投資を行いました。

以上、二つの重点活動以外にも様々な取り組みを進めています。2010年度は引き続き、非常に手頃な価格のクルマの開発を進めています。インドでは、アショック・レイランド社との合弁事業を通じて、エントリープライスの商用車ドストを発表しました。2011年度の第2四半期に生産を開始する予定です。また、「Mobility for all」、全ての人々にモビリティをご提供する戦略を大きく前進させ、タイ、インド、中国、そしてメキシコでグローバル・コンパクトカーの現地生産と販売を開始しました。

2010年度は低炭素、低排出のピュア・ドライブ技術を幅広い商品に搭載しました。高価格帯のインフィニティMの先進的なハイブリッド・システムから、CO2排出量95グラムを実現する小型車のスーパー・チャージャー付1.2リッターエンジンまで、ピュア・ドライブの適用を拡大しています。ピュア・ドライブはそれぞれの車格に適した低排出技術を適用し、全てのお客さまにご提供します。ピュア・ドライブとゼロ・エミッション領域におけるリーダーを標榜する取り組みに何ら矛盾はありません。

先ほどご紹介しました日産リーフを含め、2010年度は10車種の新型車を投入しました。

  • 日本、米国、欧州に投入したジューク。
  • 日本国内にはエルグランド、セレナ、そしてモコ。
  • 米国、中東、そしてロシアにはインフィニティQX
  • 米国にはムラーノ クロスカブリオレと商用バンのNVシリーズ
  • 米国とカナダにはミニバンのクエスト
  • また中国ではサニーの名称で知られる手頃な価格の新型コンパクトセダンを発売しました。

加えて米国では、ミニバンのNV200が、ニューヨーク市の「タクシー・オブ・トゥモロウ」コンペで見事選ばれ、米国最大の保有を誇る同市のタクシーは、2013年後半から順次同車種に統一されます。

2010年度のもう一つの重大な取り組みは、ダイムラーとの戦略的協力関係の締結と、軽自動車の合弁事業の設立を含む三菱自動車との協力関係の拡大です。これら協力関係を通じて、当アライアンスは、様々な企業との幅広いプロジェクトとベスト・プラクティスの共有を通じて更に進化し、力をつけていきます。

2010年度販売状況
2010年度、当社のグローバル販売台数は過去最高を更新しました。

グローバル全体需要は2009年度の6,450万台から2010年度は12.6%増の7,260万台となる中、日産のグローバル販売台数は19.1%伸びました。当社の販売は前年の350万台から418万5千台に達しました。

2010年度通期のグローバル市場占有率は5.8%でした。

地域別の販売実績をご紹介いたします。ホーム・マーケットである国内の当社販売台数は前年比4.7%減の60万台に留まったものの、市場占有率は0.1ポイント増の13%に改善しました。ジューク、セレナ、エルグランドをはじめとする新型車の売れ行きが功を奏しています。

最大市場の中国では需要の拡大を上回る販売増を果たしました。中国の乗用車と小型商用車の全体需要は、2010年暦年で前年比31.6%増の1,660万台となる一方、当社の販売台数は前年比35.5%増の102万4千台に達しました。シルフィ、ティアナ、そしてキャシュカイが牽引役を果たしました。当社の2010年度通期の市場占有率は6.2%となりました。

米国の全体需要は前年比12.4%増の1,210万台に達しました。当社の販売台数は前年比17.3%増の96万6千台となり、市場占有率は8%と過去最高となりました。メキシコでは販売を20.2%伸ばし、市場占有率は業界トップの23.1%に達しました。燃費の良いローグやセントラ、そして着実に販売を伸ばしているインフィニティ車が北米全体の販売を支えています。

欧州の全体需要は前年から0.5%減少したものの、当社の販売台数は前年比19.3%増の60万7千台となり、市場占有率は3.3%に上昇しました。ロシアにおける販売台数は前年からほぼ倍増の10万2,500台となりました。西ヨーロッパでは販売台数を10.6%伸ばし、コンパクト・クロスオーバーのジュークやキャシュカイが販売を支えました。

その他市場の販売台数について申し上げますと、中南米では前年比65.7%増の16万9千台となり、タイでは、前年比87.6%増の64,900台に達しました。また、インドネシアでは、前年比65.4%増の42,600台となり、中東では微増の18万台となりました。

2010年度財務実績
2010年度の財務実績は、各市場における計画的な成長と価値創造の取り組みの賜物です。2010年度は利益と多額のフリーキャッシュフローを生み出しました。

連結売上高は前年比16.7%増の8兆7,731億円となりました。
連結営業利益は前年の3,116億円から5,375億円に増加しました。当期純利益は前年の424億円から3,192億円に増加しました。

それでは営業利益の増減要因をご説明します。

  • 1,475億円にのぼる為替変動による減益は主として米ドルに対する円高によるものです。
  • 購買コストの削減は1,058億円の増益要因となりました。これには、原材料価格とエネルギー費の上昇による852億円の減益が含まれています。
  • 台数・車種構成はグローバル販売台数の増加に伴い、4,331億円の増益要因となりました。
  • 販売費は1,915億円の減益要因となりましたが、これは主として、台数増によるものです。
  • 研究開発費は185億円増加しました。
  • 販売金融事業は295億円の増益要因となりました。
  • 残る150億円の増益要因は、主として関係会社の利益改善によるものです。

2010年度末の自動車事業実質有利子負債は前年から飛躍的に改善し、2,933億円のキャッシュ・ポジションとなりました。年度当初の為替水準に置き換えると、キャッシュ・ポジションは3,911億円となります。

当社は引き続き、新車の在庫管理の徹底に努めています。2010年度末の在庫台数は61万台に増加したものの、在庫日数は50日に留まっています。

東日本大震災以降の取り組み
冒頭で申し上げましたように、3月11日に発生した大震災は事業に大きな影響を及ぼし、当社は当面リカバリー体制を維持しています。震災の影響を最小限に抑えるべく進めている活動についてご説明しましょう。

震災直後、複数の工場及び事業所から被害状況の報告を受けました。当社の国内事業所の中でも、震源地に近く、最も被害が大きかったのは、いわき工場と栃木工場です。COOの志賀の指揮のもと、全社災害対策本部を発足し、各拠点の復旧活動をまとめています。震災発生から丁度1ヶ月後の4月11日に、部品の供給に応じて車両生産を再開しました。いわき工場のVQエンジン組立ラインは4月18日に操業を再開し、残る工程も5月中に再稼働する予定です。

当社と取り引きのある数多くのサプライヤーが甚大な被害を受け、復旧に時間が掛かっているため、部品の供給不足が続いていますが、事態は徐々に改善しています。当社は日々、サプライヤーと緊密に連携し、部品の供給状況を確認しています。

日産は危機対応がしっかりしているとの評価をいただいておりますが、これはひとえに従業員一人ひとりの意欲があってこそです。NISSAN WAYが掲げる心構えと行動を実践してくれている従業員のお陰で会社は強くなり、対応力が身についているのです。

しかしながら、取り組みはまだ終わったわけではありません。私どもは引き続き、お客さまに一刻も早く商品をお届けするべく、全力で取り組んでいます。現在直面している課題は、主に次の3点です。

一つ目は寸断されたサプライ・チェーンです。当社は一日も早い復旧に向け、複数の重要なサプライヤーに支援を行っています。同時に、部品やその構成部品の代替品確保にもあたっています。

二つ目の課題は夏場に想定される供給を上回る電力需要です。日産は電力不足に対応するべく、全社的な節電に取り組みます。夜間操業や自家発電の活用を検討するとともに、日本自動車工業会が提案するピーク電力の削減に対応するための、休日振り替えの導入も検討しています。

三つ目の課題は福島原発事故による放射能汚染の風評被害です。私どもは、3月から日本製の商品の放射線量測定を実施し、輸出車両の安全性を継続的に確認しています。

2011年度業績への影響
現段階では、10月中に国内外の全ての工場でフル生産を再開できる見込みです。

東日本大震災以来、復旧状況は刻一刻と変化しています。当社は継続的に事態の把握に努め、状況に応じて対策を見直しています。そのため、現時点で2011年度通期の業績予想を発表することは時期尚早と判断しました。しかしながら、6月に開催する当社の株主総会までに発表したいと考えています。

まとめ
2011年度に入り、日産は震災からの復旧と、お客さま対応に全力を尽くしています。国内の部品供給は未だ安定していないものの、当社は今年の10月に事業を回復し、挽回できると見込んでいます。

今回の大震災は、グローバル生産と輸出拠点としての日本の将来に疑問符を投げかけました。しかしながら、ここではっきりと申し上げたいと思います。私ども日産は、国内生産100万台を維持することを改めてお約束します。日産は成長を続けており、国内の生産能力が必要です。また、ホームマーケットである日本のモノづくり力の維持・向上を重視しています。

近々、次期中期経営計画を発表いたしますが、本計画に関わる戦略は全て確定しています。2010年度はその土台作りの年となりました。次期中期経営計画は定時株主総会開催日前までに発表する予定です。

最後に、2010年は前例のない特別な年となりました。日産は世界最大の自動車市場である中国において、業界で最も成功した企業となりました。さらに、その他の新興市場においても中国と同様、志の高い目標を掲げています。また、日産リーフの好調な滑り出しのお陰で、日産はいまや持続可能性において紛れもなくリーダーであり、再生することが困難な特定の資源に依存することのない将来社会に向け、自動車産業全体の推進役となっています。東日本大震災で私どもの覚悟は試されましたが、多くの従業員が不眠不休で復旧活動に専念し、この難局に対処してくれました。当社の復旧活動は順調且つ着実に進んでいます。日産は世界各地で長期的な利益ある成長に向けた態勢が整っているのです。

以 上